バーナード・ショーの「ピグマリオン」を読みました

アイルランドの作家シリーズ。お次はバーナード・ショーです。

1950年に94歳の長寿を全うするまで、多くの戯曲をはじめ小説、評論を執筆し、1925年にはノーベル賞受賞。英語圏の国々で多大な功績を残した才人として知られています。

「ピグマリオン」は、あのオードリー・ヘップバーン主演の映画「マイ・フェア・レディ」の原作です。

ところが、当然にロマンチックなラブ・ストーリーを想像していたのですが、だいぶ違いました。

ロンドンの街で花を売る、下品な娘イライザが、ふとしたきっかけで言語学者ヒギンズの関心を引き、その友人ピカリング大佐とともに「6カ月で上流階級のレディに変身する」というプロジェクトに挑むことになります。特に大変だったのは、イライザの「下町訛り」で、さすがのヒギンズも大苦戦しますが、どうにか美しく、上品極まりないレディへの大変身が成功します。

ただ、映画と大きく異なるのは、イライザはヒギンズとは結ばれず、なんの面白みもない若者フレディと結婚してしまうということ。

これを説明するため、ショーが追加した「後日談」があるのですが、これがなかなか秀逸です。

要するに、ヒギンズのように芸術や科学を愛する男性は、なぜ単純な恋愛には惹かれないのか。イライザのように美貌を備えた若い女性は、打算でなく本能に従って相手を求めるので、自分を一番愛してくれる相手でなければ、到底満足できない。よって、この二人は結びつくはずがないということ。「彫像のガラテアが自らの創造主であるピグマリオンを本当に好きになることは決してない。彼女にとって彼はあまりにも神のごとき存在であり、到底付き合えるものではない」とまで言い切っています。

よって、映画の脚本が、この思想と大きく異なるハリウッド流ハッピーエンドとならざるを得なかった時、脚本を担当したバーナードショーは激しく反発。ただ、結局、アカデミー賞脚本賞を獲得することになるんですが・・・(尚、現在にいたるまで、ノーベル賞とアカデミー賞を両方受賞したのはバーナード・ショーただ一人なんです!)。

この光文社の新訳は、2013年に石原さとみがイライザ役で主演した際の新台本で、当然に、現代の感覚からも違和感ない、とても読みやすいものになっています。

ということで、一癖も二癖もある、奥行きの深い作家、バーナード・ショー。

この屈折ぶりは大いに気に入りました。最近急激にハマりだしたアイルランドの作家陣の中でも、ジョイスを抜いてオスカー・ワイルドと同じ程度、というかショーがやや上という、久我の序列となった次第です。

ぜひ、みなさまもご一読を!

 

<海外,文学:関連記事>

コメントを残す