ケイト・ブッシュ:唯一のツアーの全貌を知るにはこれ!


ケイト・ブッシュは1977年にデビューし、1979年に『The Tour of Life(ツアー・オブ・ライフ)』と銘打たれた初のコンサート・ツアーをヨーロッパで敢行します。全28回の公演は、いずれも絶賛の嵐のうちにフィナーレ。ところが、なぜかそれ以降、今日に至るまで彼女のツアーは一切封印されてしまうんです(2014年の復活コンサートはロンドンでの単独公演)。

ケイト・ブッシュの、この貴重なコンサート・ツアーを記録するものとしては、長らく、1979年5月19日のロンドン公演を捉えた『ライブ・アット・ハマースミス・オデオン』という、ミニ・アルバムとビデオしかありませんでした(のちにCD/LD化)。もちろん、わたしにとっては大切な家宝なのですが、壮大なコンサートの半分以下の曲目しかカバーしていないという意味では、やや物足りないものでした。

そこで、この『ケイト・ブッシュ ライブ 1979』というアルバム。

これは同年4月10日、マンチェスター・アポロ劇場でのステージを丸ごととらえ、2枚組CDに記録した、文字どおり完全盤なのです。

完璧主義者のケイト・ブッシュが練りに練ったステージは、全三幕構成、合計25曲に及びます。

頻繁に衣装を着替え、それぞれの楽曲の主人公になり切って、歌い、踊るケイト・ブッシュ。ダンス、パントマイム、マジックや多数の小道具、イメージ映像の投影など、曲ごとに工夫を凝らした演出で、ステージ上に各曲の世界を現出させて行きます。それはコンサートというよりも、さながら戯作の舞台上演のよう。「尋常ならぬアーティストによる尋常ならぬパフォーマンス」と、当時、マスコミの絶賛も相次ぎました。

当日のセット・リストは以下のとおり。彼女のデビュー・アルバム『天使と小悪魔The Kick Inside)』と、セカンド・アルバム『ライオンハート』のほぼ全曲が披露されました(ハマースミス盤の収録曲は★):

■Disc 1:
(第一幕)
1.天使と小悪魔
2.サキソフォーン・ソング
3.生命のふるさと
4.ローリング・ザ・ボール
5.少年の瞳を持った男
6.エジプト
7.ラムールは貴方のよう
8.バイオリン ★
9.スポークンワード>ジョン・カーダー・ブッシュ
10.キック・インサイド
11.インターバル
(第二幕)
12.暖かい部屋で
13.フルハウス
14.奇妙な現象 ★
15.ハンマー・ホラー ★
16.カシュカの館
17.車輪がすべる ★
■Disc 2:
(第三幕)
1.ワオ ★
2.コーヒーはいかが
3.ピーターパンを探して
4.ブルーのシンフォニー ★
5.フィール・イット ★
6.風に舞う羽根のように(カイト) ★
7.ジェームズ・アンド・コールド・ガン ★
(アンコール)
8.ライオンハート ★
9.嵐が丘 ★

実は当日のビデオ映像も残っており、そのステージの全貌を垣間見ることができます:

このマンチェスター公演はテレビ放送とCD販売用に全曲録画・録音されたのですが、ケイトはその内容が気に入らず、お蔵入りとなってしまい、結局、1ヶ月後のロンドン公演のレコーディング素材が、限定的な内容で発表されたにとどまりました。

その後、海賊盤の形で出回ることもあったマンチェスター公演ですが、40年の時を隔て、テレビ局で発見されたオーディオ・マスターをもとにリマスター化され、このCDは発売されました(という意味では、放送コンテンツの正式了承を得てリリースされたものでしょうが、ケイト・ブッシュ本人の了承の有無は不明。「公式ではないが正規に収録されたモノ?」つまりは、「公式海賊盤」みたいなものか?)

確かに、ハマースミス版と聴き比べると、演奏の迫力は感じられるものの、やや音像が近すぎてドライな感触であり、時折、乱暴な雰囲気も感じられます。その点、全体のバランスも良く、ステージの大きな空間が感じられるハマースミス盤の方が無難と判断されたのも良く分かります。ただ、丸ごとワン・ステージを補足した、このマンチェスター盤の価値が減じることは決してないでしょう。

このデビュー・ツアーで、ケイトはすべてのエネルギーを出し切って疲れ果ててしまったのか。一説では、ツアー中に起こった照明技術者の事故死という事件も影を落としたとか。ケイト・ブッシュは、これにて一切のツァー活動を封印してしまうのでした。

尚2022年に、『バーミンガム 1979』というCDも発売されたのですが、これは1979年12月28日、BBCの「クリスマス特番」用にバーミンガムのラジオ・スタジオで録画・録音されたもの。全11曲、CD1枚組。ピーター・ガブリエルのゲスト出演ということもあり、これも貴重な音源です。

その特番がこれ:

やはり海賊盤で出回ってはいましたが、今般のリマスターCDは音質も向上しており、これまたファンには必携のアイテムとなりました。

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