幻の映像 / P.F.M.

Premiata-Forneria-Marconi-Photos-of-Ghostsルネッサンスの国イタリア。

美術から音楽まで、あらゆる芸術の分野で圧倒的な存在感を示すイタリアですが、現在のポピュラー・ミュージックの世界ではなぜイマイチ冴えないんだろう、なんて思います。

そんなイタリアの「威信」を、ロックの世界で示してくれたのがP.F.M.でした。

「プレミアータ・フォルネリーア・マルコーニ(Premiata Forneria Marconi)」という長い名前を持つP.F.Mは、1960年代中ごろからその前身が活動し、1970年にミラノで正式に結成されました。

彼らのコンサートに感動したのが、あのEL&Pのグレッグ・レイクです。

自らのレーベル「マンティコア」にP.F.M.を招き、キング・クリムゾンの作詞家ピート・シンフィールドに、英語詞とプロデュースを託し、世界に問うたのが1973年の、このアルバム「幻の映像(Photos of Ghosts)」なのです。

まず、世界を驚かせたのがその演奏テクニックでした。

フランコ・ムッシーダはアコースティックからハードまで流麗にギターを奏で、フランツ・ディ・チョッチョは、手数の多いまさにプログレシブ・ロック王道のドラムを炸裂させ、キーボードのフラヴィオ・プレモーリはミニ・ムーグやメロトロンを自在にあやつり、端正な指使いのオブリガートでクラシカルに彩ります。

そして、ヴァイオリンとフルートなどマルチに大活躍するのがマウロ・パガーニです。

彼の奏でる地中海的、ワールド・ミュージック的な、明るくエキゾチックな感性こそが、その頃主流だった英国系プログレと大きく異なるP.F.M.の個性であり、その立役者こそがマウロ・パガーニだったのです。

この実力派集団が一糸乱れず、静謐なピアニッシモから怒涛のフォルテッシモまで、変幻自在に、驚くべき世界を展開するんだからたまりません。

アルバム「幻の映像」の冒頭を飾る曲「人生は川のようなもの(River of Life)」には、そんなP.F.M.の魅力がすべて凝縮しています。

筆者は、コレ一発で、完全にPFMの魅力にハマってしまいました。

ぜひ、聞いてみてください:

アコースティック・ギターとフルートにチェンバロが加わったバロック調の室内楽。ところが、一転、鉄杭のようなドラムが振り下ろされ、ハードにひずんだ世界に突入します。すると、ヴォーカルがつぶやくようにささやき、ミニ・ムーグとメロトロンによる壮大なテーマで、大海に繰り出していくイメージが広がります。7分弱の物語性をもった音空間は、とてつもなく繊細で、高い音楽性に富んでおり、聴くものを引きずり込んで離しません。

これぞ、レオナルド・ダ・ヴィンチを生んだ国イタリアの真骨頂!

続く「セレブレイション」は、一転、明るくノリノリなシャッフル・ロックのナンバーです。コンサートの終盤で一番盛り上がる定番ナンバーがコレ。フラヴィオ・プレモーリのぶっといミニ・ムーグが、イタリア的に能天気なテーマを高らかに演奏すると、マウロ・パガーニがピッコロでかわいらしく追っ掛けます。

爽快にロックして下さい!

そのほか、夢幻的なタイトル曲「幻の映像」、これでもかと繰り出されるテクニックの応酬「ミスター9時~5時」など、実に中身が濃く、音楽性、テクニック、陰影に富んだ構成などの点で、当時全盛を極めた本家英国のプログレシブロックの大物たちの上を行っているとすら思えます。

P.F.M.はその後、本作に勝るとも劣らない傑作「蘇る世界(The World Became the World)」を発表しました。

これをP.F.M.のベストに上げる人も多いです。

イタリア盤と英国盤があり、これも好き好きが分かれますが、筆者はイタリア盤の方がしっくり来ます。中でも、「原始への回帰(Four Holes in the Ground)」は、驚くべきテクニックの応酬に、イタリアンなメロディーが開花するPFMのベスト・テイクとも言えましょう。

1974年のライヴ盤「Cook」における壮絶なバージョンで、是非お聞きください:

P.F.M.はアメリカへの進出も果たしますが、グループの主柱マウロ・パガーニが脱退して以降、一時通俗化の道を歩み、人気も下り坂に入ってしまいます。

P.F.M.は、その後何度もメンバーチェンジを行い、現在も活動を続けており、日本公演もしっかり実現してくれています。

筆者はP.F.M.に続く存在を求めて、イタリアのプログレ・バンドをかなり追い掛けてみました。「アレア」、「ニュー・トロルス」、「オザンナ」、「イプー」など、それなりにユニークです。でも、歴史を超えて、真に評価に値するのは、後にも先にもP.F.M.をおいてほかにないように思うんです。

イタリアが世界に迫った!まさに、それがP.F.M.なんです!

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