そりゃ、あたしゃレオナルド・ダ・ヴィンチにはうるさいですよ。
なにしろ、ダ・ヴィンチの現存する絵画作品は、すべてモレなく見てますしね(➡️こちらをどうぞ)。
えっ?没後500年?まあ、特に関係ないですけどね・・・。別にお祭りで騒がなくても、ダ・ヴィンチはダ・ヴィンチですから。
しかし、とにかく、こんなに立派な構えで、こともあろうに、正面から『レオナルド・ダ・ヴィンチ』なんて本を出されちゃったら、そりゃ、読まないわけにはいかないじゃないですか。
なるほど、あのスティーヴ・ジョブズの伝記を書いた人ですか。ウォルター・アイザックソン。あれは、本当に優れたバイオグラフィーでした。何しろ、あの変人ジョブズが唯一認めたライターというだけあって、まさにプロの仕事を魅せてくれましたね。
でも、今度はダ・ヴィンチですか?
で、読みはじめてすぐ分かりました。作者は、画家としてのダヴィンチというよりも、むしろ、その多方面に及ぶ天才ぶりを描き出すことに焦点を当てています。科学者であり、軍事顧問であり、舞台演出家だったり、解剖学の権威だったり、まさに「人類史上初めて現れたイノベーター」という切り口にフォーカスしています。
そして、それを可能にしたのが、ダヴィンチの遺した膨大な手稿。あの、ビル・ゲイツが30億円で入手した『レスター手稿』、イギリス王室コレクションの『ウィンザー手稿』など、現存するものだけで5000ページに及ぶノートやスケッチを、どうも徹底的に読み込んだようなんですね。
これはものすごい。
ただ、ダ・ヴィンチが「単なる画家だけじゃない天才」というのは、もう誰でも知ってる事実だし。同性愛についても、イタリアからフランスに身を寄せ、王に看取られたといったエピソードも、特に目新しいものはありません。
しかも、一番今ひとつなのは、絵画そのものに関する叙述が極めて凡庸で、なんともつまらんことです。
筆者は、おそらく肝心なダヴィンチの絵画そのものについては、あまり興味はないんですね。
こりゃ、いかんです。
久我にとって、レオナルド・ダ・ヴィンチは、やはり「画家」なんであります。
『モナ・リザ』など、10数点しか現存していない貴重な絵画作品のみで、古今東西の最高峰の画家としての地位を完全に確立してしまった、ということ。それがどれだけものすごいか、ということ。
確かに、例えば人体の解剖実験を何体も行なったとか、異様なまでに自然を研究し、光学から植物学まで深く探求したからこそ、それが絵画においても、あの驚くべき正確さと、とてつもない表現力に結実した、というのは分かります。
ただ、どんなに奇抜な飛行装置を考案しようが、恐るべき武器を考えだそうが、実用化されたものは皆無であり、やはり、それは膨大にほとばしるレオナルドの「余技」に過ぎなかったんじゃないかな、って思えるんです。
むしろ、一番共感したのは、とにかく仕事が遅く、わがままで、注文を受けた仕事の多くを完成せずに放り出してしまったというお話。一方、『モナ・リザ』のように、終生手放さず、ひたすら加筆し続け、完璧を求めて極めていったというエピソードこそ、空前絶後な芸術家、レオナルド・ダ・ヴィンチの本性をまざまざと描き出すものとして、とても印象的でした。
いずれにしても、すでに日本でもベストセラーになっているようですし、レオナルド・ダ・ヴィンチ好きを自認する向きには、必読の書籍であることは間違いないでしょう。
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