<久我の100曲>『グッドバイ』リッキー・ピーターソン

次にご紹介したいのが『グッドバイ(Goodbye)』。リッキー・ピーターソンの1991年のソロ・アルバム『スマイル・ブルー(Smile Blue)』の冒頭を飾る楽曲です。

霧の中を、クールにビートが刻まれ、リッキー・ピーターソンのソウルフルなヴォーカルが忍び寄る。やがて、サックスとストリングスと共にコーラス部が歌い上げられ、ローランドD-50シンセサイザーを操るリッキー・ピーターソンのソロもからみながら、また、すべてが霧の中へと・・・。

実はこの曲は、なんと1935年、ゴードン・ジェンキンスという人が作曲したジャズのスタンダードで、ベニー・グッドマンが演奏したり、フランク・シナトラが歌ったりした有名な曲なんです。

当時のオリジナルを聴いてみて下さい:

それにしても、似ても似つかない古風なものでしょ?

これを採り上げた選曲眼、そして、ここまで現代風にアレンジし切ったリッキー・ピーターソンの編曲能力には、ただならぬものがあると思うんです。

リッキー・ピーターソンは、ミネソタ州ミネアポリス出身のキーボード・プレイヤーです。

1980年代から、デヴィッド・サンボーンの右腕として活動し、90年代に入ると同郷のプリンスを支え、“The Most Beautiful Girl in the World“を共同プロデュースするなど頭角をあらわしました。共演を果たしたアーティストは、ビリー・ジョエルジェームス・テイラーボズ・スキャッグスチャカ・カーンポーラ・アブドゥルアニタ・ベイカージョージ・ベンソンなど多数に及びます。ソロ・アルバムも、今までのところ5作出しています。

久我がリッキー・ピーターソンを知るきっかけになったのは、その頃読んだ松任谷正隆のインタビュー。最も愛聴しているアルバムとして、この『スマイル・ブルー』と、マイケル・フランクスの『アート・オブ・ラヴ』が挙げられていたんです。

さすが、松任谷先生が推薦するだけあって、この2枚には本当にハマりました。

特に、リッキー・ピーターソンの本作は、数あるAORの中でも、「最も注意深く、繊細に構築されたアルバム」というイメージで、今でも大いに愛聴しているんであります。

リッキー・ピーターソンの多彩なキーボード・プレイと、これだけで本職として成り立ちそうなヴォーカル・テクニックにまず脱帽。

脇を固めるのは、ベースのポール、コーラスのパティ、共同アレンジのビリーというピーターソン兄弟。それに、ギターでハイラム・ブロックやパーカッションのドン・アライアスなどが起用されています。

そして、なんと言っても、この曲『グッドバイ』の印象を決定づけているのは、ドラムのヴィニー・カリウタでしょう。

スローな楽曲にも関わらず、これ以上ないほどのタイム感で「絶妙なタメとグルーヴ」を生み出し、シャープなシンバル・ワークや、ハイハットのダブル・ストロークで「究極の緊張感」を演出しています。このドラミング・テクニックは、ひたすら「アッパレ!」というほかありません。

ヴィニー・カリウタは、そのあまりにも強烈なテクニックで「怪物ドラマー」とも言われ、ついにはセッション・ドラマーとして頂点の座を極めました。ジェフ・ベックスティングビリー・ジョエルセリーヌ・ディオンチック・コリアなどなど、トップ・アーティストからのオファーもひっきりなし。「Modern Drummer magazine」誌の読者投票によるドラマー・オブ・ザ・イヤーには通算18度も選ばれるという、まさに怪物なんであります(久我としては、カリウタさんはあまりにも「怪物」すぎて、好きなドラマーのトップ3とかには入らないんですよねー・・・。はい、それはビル・ブラッフォードサイモン・フィリップステリー・ボジオの3人です・・・)。

さて、ということで、AORの一つの頂点を極めた楽曲として、リッキー・ピーターソンをご紹介させていただきました。

最後に、彼の渋いライブ映像(2017年9月)をぜひご覧ください!:

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(ところで、このCDには「2015年最新リマスタリング」って書かれてますけど、Akihiko Yoshikawaというヒトがリマスタリングをやったようです。ジョージ・マリノによるオリジナルのマスタリングは、今聞いてもほぼ完璧なのに、なんでリマスター必要なの?そして案の定、ほとんど変わらないというか、わずかながら音場が狭くなり、明解さや迫力が失われたように思えます。こういう日本人による「勝手リマスタリング(もちろん法的には許可を得てるんでしょうけど)」は、とにかくやめてもらいたいです。ボジョレ・ヌーボーじゃないんだから、なんでも「最新」である必要なんかないんです。ただ粛々と再販してくれればそれでいいの!)

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