久我の最も敬愛するアーティストはビル・ブラッフォードであります。
あまりにも好きすぎて、冷静さを欠くほどです・・・。
(正確には「ブルーフォード」と発音するらしいですが、いまさら言われても・・・。ということで、どうか、ご容赦ください・・・。)
なにしろ、ビル・ブラッフォードは最高です。いや、最高を越えています。
ドラマーとしての技量のみならず、プロとしての生き方そのものが、とにかくすばらしい。
妥協に甘んじることなく、ワザをみがき続け、自らの音楽を追及する。その生真面目な求道精神こそが、ビル・ブラッフォードの真骨頂だと思います。
ビル・ブラッフォードのプレイの特徴をひとことで言えば、「タイトでシャープ」ということにつきます。
最大の特徴は、そのスネア・サウンド。
スコーン!
高音でクリスピーに抜けるその音色は、どんな曲でも、彼が叩いていると一発でわかる、まさにシグネチャー・サウンド。
アマチュアのころから、パワー不足を補って大きな音を出そうと、いつもスネアのリム・ショットを加えているうちに、あのサウンドにたどりついたとか。
はじめてビル・ブラッフォードのプレイに触れたのは、1971年、イエスの『こわれもの(Fragile)』でした。
トップを飾る『ラウンドアバウト』。
クリス・スクワイアのベースと一体となって、ビル・ブラッフォードのドラムが、スピーディかつ正確に、折り目ただしくグルーブを叩き出す。
スコーン!スコーン!
リック・ウェイクマンのオルガン・ソロにからみ、一転、ワイルドに盛り上げるブラッフォード。時おりぶっきらぼうに、どこかわがまま小僧のようなランダム・ショットも炸裂させて。
スコーン!
たまらん・・・。
その、あまりのカッコよさに、一発で激烈なブラッフォード・ファンになってしまいました。
プログレッシブ・ロック界の「必殺仕事人」とも言われるビル・ブラッフォード。
その経歴は本当にすごいです。
イエス、キング・クリムゾン、ジェネシス、ナショナル・ヘルス、UKなどなど。まさに、トップ・グループを渡り歩いて行きました。
どのバンドも、プログレシブ・ロックを「あるべき姿で」成り立たせるためには、ビル・ブラッフォードのドラミングこそ不可欠、と考えたからにほかならないでしょう。
2002年、ビル・ブラッフォードは、若手ヘビメタ・プログレの「Gordian Knot」というバンドにかつぎ出され、「Emergent」というアルバムにゲスト出演したのですが、その際、リーダーのショーン・マローンは、「最も尊敬されるドラマーの一人であるビル・ブラッフォードによる離れ業に、自分のベース・ラインを紡いでみたかった。イエスやキング・クリムゾンを聴いて育ったから、一緒に演奏できたことは言葉にならないほどの感動だった」と振り返っています。
世代を超越した、ただならぬ尊敬のされ方と言えましょう。
既に引退を表明してしまったビル・ブラッフォード。
現在は、一切のパフォーマンス活動から身を引き、ゆったりとした「リタイアメント生活」を謳歌しているようです。
ここにも、彼の生真面目な性格があらわれていますね。
「満足できる、質の高いプレイを披露できなくなったら、身を引く。」
どこかの誰かとは大違いな(?)、その潔い身の処し方・・・。
まだいくらでもプレイできると思うし、熱烈なファンとしては非常に残念なんですが、その生き方を大いに尊重します。
そして、ただこう申し上げたいです:
「ありがとう、ビル!」と・・・。
さて、そんなビル・ブラッフォードの魅力のを味わっていただくために、数ある作品の中から、「これぞ!」という推薦盤をご紹介しましょう:
『フィールズ・グッド・トゥー・ミー / ビル・ブラッフォード』:
1977年、ビル・ブラッフォードのソロ第一弾。あのアラン・ホールズワースをはじめ、強力なメンバーのサポートを得ながら、ドラマチックかつ躍動感あふれる世界が展開します。
一枚選べといわれれば、断然これ!
タイトル曲の『フィールズ・グッド・トゥー・ミー』を聞いて下さい。若きビル・ブラッフォードが、青年の志に燃え、高らかに胸を張って歩み始める。何度聞いても目頭が・・・。
『ワン・オブ・ア・カインド / ブラッフォード』:
1979年、ついに自身の名を冠したバンド『ブラッフォード』を結成。盟友デイブ・スチュワートとジェフ・バーリンが脇を固め、アラン・ホールズワースも弾きまくります。ビル・ブラッフォードの作曲能力もさらに開花。曲はおなじみ『ヘルズ・ベルズ』。
さて、同じく「ブラッフォード」のメンバーによる貴重なライブ映像がこちらです。
あまりにも有り難くて、全員後光が射しています・・・:
『憂国の騎士 / U.K.』:
ビル・ブラッフォード、アラン・ホールズワース、エディ・ジョブソン、ジョン・ウェットンという、プログレ界の重鎮たちによるスーパー・グループの1978年のデビュー盤。大英帝国の威信をかけて、プログレの再興をはかりつつ、アルバムの冒頭を飾るのは『In The Dead Of The Night』。
これぞ「プログレ」と呼ばずしてなんと呼ぶ!
『レッド / キング・クリムゾン』:
そりゃ、やっぱりクリムゾンですよね。「第3期」の終わりを告げる「レッド(1974年)」。ロバート・フリップのひたすら歪むギター、ジョン・ウエットンの大地を縫うベース、そして、ビル・ブラッフォードのパワーと技巧が炸裂するドラム。まさに、これは、三人でできることの「臨界点」でしょう。
『セコンズ・アウト / ジェネシス』:
プログレ界の渡世人ビル・ブラッフォードはジェネシスにも招かれ、サポート・メンバーとしてライブに同行しました。その際のステージ模様を記録したアルバムが『セコンズ・アウト』です。
中でも、名作『シネマ・ショウ』におけるフィル・コリンズとのツイン・ドラム合戦は、まさに白眉。特に、後半のバトルでは、両者一歩も引かず、何度聴いても興奮します(それにしても、このビデオは無駄な映像が多いなー):
『フラッグス/パトリック・モラツ & ビル・ブラッフォード』:
多くのアーティストとのコラボレーションを深めて行ったビル・ブラッフォード。中でも、元イエスのキーボード・プレイヤー、パトリック・モラツとの一連のデュオ活動は、実り多いものでした。
モラツの華麗なるプレイにビルのシャープなドラミングがからみ、緊張感ある美しい世界を構築しています。
特にこの曲『Everything You’ve Heard Is True』は素晴らしい!
『サウンド・オブ・サプライズ / アースワークス』:
キャリアの後半では、一転してアコースティック・ジャズを志向して行ったビル・ブラッフォード。ただ、そこは彼のこと、単なる伝統的なフォービート・ジャズなんかではありません。微妙にひねりがあり、奥が深く、聞けば聞くほどはまります。
自身のバンド『アースワークス』でリリースされた多数のジャズ・アルバムより、2001年の『サウンド・オブ・サプライズ』。曲は『Revel Without A Pause』(ジェームズ・ディーンの名画『理由なき反抗(Rebel Without a Cause)』のもじりが素敵!):
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[補論:ビル・ブラッフォードとアラン・ホワイト]
プログレシブ・ロックのドラマーはこうでなければならない、というのは、両者の違いを見れば分かります。
イエスの「危機」は、基本的に三拍子の曲です(ワルツなんです!)。
で、これを、ビル・ブラッフォードの場合は、ふつう、一小節の三拍目にスネアのビートを持ってくるところを、時として(無意識に?)、一拍目 (小節のあたま)、あるいは二拍目に持ってきます。その結果、一瞬、変拍子のように複雑なビート感をたたき出すことに成功し、楽曲全体に引き締まった緊張感、文字どおり「危機」をかもし出すことに成功しているんです。
これをアラン・ホワイトがやると、あくまで三拍子の三拍目をただ乱暴に叩いてしまいます。なので、緊張感というものが全く出ず、単純に前に進んでいくだけなんです。たとえば「イエス・ソングス」での「危機」のライブを聴くと、悲しくなります・・・。
これはアラン・ホワイトの場合、普通のロック系のセッション・ドラマー出身で、「ストレートなロック」しかやったことがなかったので、しかたがないとも言えます。上手・下手ということでなく、向き不向きの問題です。その素養は、何年たっても変わりません。
「こわれもの」の「ラウンド・アバウト」でも同様です。
ビル・ブラッフォードは、はっきり言ってどう叩いているのか良く分かりませんが、とにかく、ものすごい躍動感を生み出しています。鍵は、スネア・ドラムのロールとキックのタイミングにあると思われます。そのシグネチャー・サウンドであるスネアで「スコーン、スコーン」と突き抜け、何度聴いても快感!。これを、さらに、予測不能なランダムなタイミングで繰り出すんだからたまりません・・・。
一方、アラン・ホワイトの叩く「ラウンド・アバウト」は、ただの8ビート・ロックになってしまいます。ただ力強いだけで、ぜんぜん違うんです。
この根本的なちがいを無視して、ビル・ブラッフォードの脱退時にアラン・ホワイトを連れて来たジョン・アンダーソンを、久我は恨みます(但し、「錯乱の扉」だけは、アラン・ホワイトの貢献を認めてあげてもイイかな・・・)。
プログレシブ・ロックのドラマーに必要なのは、まず、ジャズの素養、アフター・ビートのみでないスイング感覚、繊細なタイム感、音楽を、流れる帯でなく、瞬間瞬間のスクエアで捉えられる感じ、そして、時として一本釘をさせるロック魂。こういったものが交じり合わないと無理でしょう。
私の見たところ、そのような要素を満たすプログレ・ドラマーは、ビル・ブラッフォードのほかでは、フィル・コリンズぐらいでしょうか。そのほか、マイケル・ジャイルスやイアン・ウォーレス、アンディ・マカロックあたりも、十分ではないけれど水準には達していました。ただ、元ドリームシアターのマイク・ポートノイまで行っちゃうと、「心がない」というか、機械としか思えないですけど・・・。論外なのは、ピンク・フロイドのニック・メイソン(プログレ界のチャーリー・ワッツ)、EL&Pのカール・パーマー(もたったり、走ったり安心できない)。
ビル・ブラッフォードが、プログレ界の渡世人よろしく、そこら中から声が掛かったのも当然でしょう。彼のたたき出すビートこそが、プログレなんですから。
今は引退してしまったビル・ブラッフォード。今後は、彼の過去のアルバムを楽しむしかないんですね・・・。
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