スティーリー・ダンを、初めて聴いたのは1976年。もう40年も前のことなんですね・・・。
アルバムは「うそつきケイティ “Katy Lied”」。
当時プログレ寄りだった私の耳に、スティーリー・ダンは、ポップなんだけれど、どこか一筋縄ではいかない、摩訶不思議な感じで強烈に迫ってきました。
スティーリー・ダンは、ドナルド・フェイゲン(ヴォーカル、キーボード)とウォルター・ベッカー(ギター、ベース)のデュオ。もともとはバンド形式だったんですけれど、メンバーの技量に満足できない二人が次々とクビにし、代わりに、スタジオ・ミュージシャンをとっかえひっかえ使っているうちに、やがて、とうとう二人だけになってしまったんです。
スティーリー・ダンの特徴は、その練りに練られたサウンドにあります。
まさに一分のスキもありません。「完璧」というのはこういうのを指すんでしょう。そう、さしずめ「ポップス界の偏執狂」と言っても過言ではありません。
彼らの妥協を許さぬエピソードは、枚挙に暇がありません。
スティーブ・ガッドやラリー・カールトンなどの超一流のプレイヤーにスタジオで何時間も演奏させたあげく、気に入ったプレイやグルーブが固まるまでダメ出しを続け、録音したテイクは、おしげもなくボツにしてしまったというのはザラ。
あまりにも何度も録り直しをするので、録音テープが酸化してしまったこともあるらしいです。ほんまかいな?
例えば、アルバム「彩 (Aja)」におさめられた「ペグ (Peg)」では、気に入ったギター・ソロが録れるまで10人以上のギタリストをスタジオに呼びつけ演奏させ、最後にようやくジェイ・グレイドンのプレイに決まったという有名な伝説もあります。
スティーリー・ダンのサウンドは、ジャズやR&Bをベースにした「フュージョン」的色彩を放っています。一見シンプルに聴こえるグルーブは、理想の「乗り」が出るまで何時間も何時間もミュージシャンが演奏した(させた?)結果なんです。
そしてそこに、ドナルド・フェイゲンの、あのクセのあるヴォーカルが乗っかると、独特なスティーリー・ダンの定番サウンドが出来上がります。
さらに、「あれっ?なんかコード進行が変だな」と思っているうちに、サビは鉄壁のコーラスへと突入。間奏に入ると、オーバー・ドライブの効いたギター・ソロが飛び込んでくるあたりで、あなたは完全にスティーリー・ダンの魅力にはまっていることでしょう。
知的な物語性をもった歌詞が醸し出す世界観も、とてもユニークですね。
「彩(Aja)」は1977年発表の第6作アルバム。文字どおりスティーリー・ダンの最高傑作と言っても良いでしょう。全米アルバム・チャート3位。ダブル・プラチナム(200万枚)を達成し、商業的にも大成功を収めました。
筆者は、ポップスの世界で、これ以上徹底的に磨きこまれたサウンドに出会ったことがありません。どの楽曲も一筋縄では行かない「隠し味」と「切れ味」をあわせ持ち、完璧としか言いようがないんです。
集められたのは、まさに当時の最高峰を極めたスタジオ・ミュージシャンの面々。全員の名前は書ききれませんが:
- ギター:ラリー・カールトン – ギター、ジェイ・グレイドン、スティーヴ・カーン
- ドラム:スティーヴ・ガッド 、ジム・ケルトナー 、リック・マロッタ 、バーナード・パーディ
- キーボード:マイケル・オマーティアン、ジョー・サンプル
- ベース:チャック・レイニー
- コーラス:マイケル・マクドナルド、ティモシー・シュミット
- サックス:ウェイン・ショーター、トム・スコット
などなど。これらのキラ星のようなミュージシャンが一同に会し、最高のプレイを披露して(させられて)いるんです。
楽曲は次の7曲:
- ブラック・カウ – Black Cow
- 彩(エイジャ) – Aja
- ディーコン・ブルース – Deacon Blues
- ペグ – Peg
- 安らぎの家 – Home at Last
- アイ・ガット・ザ・ニュース – I Got the News
- ジョージー – Josie
まず、アルバムのタイトル曲「彩(エイジャ)」。間奏でのスティーブ・ガッドのドラムと、ウエイン・ショーターのテナー・サックスのからみは、これまた伝説。スリリングという言葉を超えた技の応酬で、二人の全キャリアを通じてもベストなプレイと言えるものでしょう。
前述の「ペグ(Peg)」はマイケル・マクドナルドのコーラスも美しいポップな佳曲で、あのジェイ・グレイドンの「伝説のギター・ソロ」を聴くことができます。
「アイ・ガット・ザ・ニュース」ではエド・グリーンとチャック・レイニーの軽快なドラムに乗ってグルーブしまくり、ラリー・カールトンのギター・ソロが弾け飛んで来ます。
そして、最後を飾るのは「ジョージー(Josie)」。あくまでも重厚に、ヘビーに・・・。
このアルバムは、1978年のグラミー賞「ベスト・エンジニアリング部門賞」にも輝いています。スティーリー・ダンと永年行動を共にしたエンジニアのロジャー・ニコルズの録音技術は、まさに秀逸そのもの。筆者がいつもサウンド・チェックに使うのはこのAja(と次作の「ガウチョ」)です。特に、一曲目の「ブラック・カウ(Back Cow)」。ポール・ハンフリーのスネア・ドラムのスナッピーの効き具合で、オーディオ機器の性能がきっちり判定できます。
まあ、とにかく聴いてみてください!
ちなみに「どのバージョンのAjaのCDが良いのか?」と問われると、はっきり言って今市場に出回っているAjaのCDは、どれも1999年にスティーリー・ダンの二人が手掛けたリマスターをもとにしているので、まず問題ないです。ただ、2010年に日本で制作された「SACD」だけは別モノで、初めは「勝手な日本仕様」とバカにしていたのですが、これがものすごい音で鳴ってくれます・・・。<但しSACDの専用プレイヤーが必要>)
さて、「Aja」が気に入った方には、ぜひほかのアルバムも聴いて欲しいです。
どれも粒よりですが、特に、「ガウチョ」「幻想の摩天楼」「うそつきケティ」あたりが定番。いずれもプラチナ・アルバム達成。個人的には、「うそつきケティ」のちょっとヘンてこりんなポップ・サウンドが、たまらなく好きなんです。
また、ドナルド・フェイゲンの1982年のソロ・アルバム「ナイトフライ」もはずせません。スティーリー・ダンの緻密なサウンドそのものともいえる大傑作で、スティーリー・ダンの音楽面での主導権は明らかに彼が握っているというのが分かります(じゃ、ウォルター・ベッカーは何なのか??)。これもプラチナ・アルバム。次の「カマキリアド(Kamakiriad)(1993年)」も必聴でしょう。
2003年のアルバム「エヴリシング・マスト・ゴー(Everything Must Go)」以降、スティーリー・ダンの新作は届けられていませんが、彼らはまだまだ現役で、ライブやほかのアーティストとのコラボなどを積極的にこなしています。かつての「偏執狂的サウンド」は多少影をひそめましたが、あくまでクールにタイトに・・・。
その独自の世界を守り抜いていく姿勢はあまりにもかっこいい!
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