話題のAppleによるロスレス・ハイレゾ配信、早速使ってみました。
結論から言うと、期待どおりの高音質な環境を実現しているものの、その使い回しや操作方法に、今ひとつなところも・・・。
ポイントをまとめてみます:
- Apple Musicで扱う全7,500万曲のうち、ハイレゾ(CD音質以上)は800万曲以上。このうち48kHz/24bitを越える特に高音質な音源(最大192kHz/24bit)は100万曲(全体の1.3%)
- 月額1000円程度で、iPhoneなどにいくらでもダウンロードし、聞くことができる
- ハイレゾは、予想どおり高音質
- ただ、どの曲やアルバムがハイレゾなのか分かりにくいし、ハイレゾの詳細(kHzやbit数)も分からない
- ハイレゾのファイル形式はFLACなどではなく、HLSという動画配信を想定したApple独自のもの
- なので、実際はストリーミングそのもの。Wifiを止めたり、Apple Musicからログアウトしたら、ダウンロードしたファイルも聞けなくなる
- 尚、MacとiPhoneの間で、ダウンロードしたハイレゾ楽曲を同期することができない?(要確認)
Appleのロスレス・ハイレゾ配信の内容自体については、この解説記事を参考にしてください(→こちらです)。
1 まず、どうやって聞いたのか?
筆者のリスニング・スタイルは、通常、iPhoneでノイズ・キャンセリングのワイヤレス・ヘッドホン(イヤホン)を使ってという形なのですが、Apple ロスレス・ハイレゾは「iPhoneからBluetoothで飛ばせない」ので、有線接続で聞くしかありません。
具体的には、iPhone 11 Pro MaxからUSBカメラ・アダプターにてデジタル出力し、ポータブル・アンプ(iFi-Audio, Hip-Dac)を通じ、ヘッドホン・イヤホン(Sure 535、Sure Aonic 50など)を鳴らすという形です(写真をご覧ください)。
2 何を聞いたのか?
今回試聴に用いたのは下記のようなアルバムです。これらは筆者が日ごろ愛聴し、CD以外にFLACやDSDなどのハイレゾ音源も所有しているので、比較しやすいものばかりです。[( )内は既存のハイレゾ音源のスペック]
- アニタ・ベイカー:「ラプチャー」(flac 96kHz/24bit)
- マイケル・ジャクソン:「スリラー」(flac 96kHz/24bit)
- ウェザー・リポート;「ヘヴィ・ウェザー」(flac 176.4kHz/24bit)
- ハービー・ハンコック:「シークレッツ」(flac 96kHz/24bit)
- レッド・ツェッペリン:「フィジカル・グラフィティ」(flac 96kHz/24bit)
- イエス「こわれもの」(flac 96kHz/24bit)
筆者のサウンド・チェックの定番はスティーリー・ダンの「エイジャ」「ガウチョ」と、アニタ・ベイカーの「ラプチャー」なのですが、今回、なぜかスティーリー・ダンのハイレゾ音源がなかったので、アニタ・ベイカーを重視しました。アルバムの一曲目、「スゥイート・ラヴ」でリッキー・ローソンの叩くスネア・ドラムがすべてです。シャープな打音の中に、しっかりコシの効いた「皮鳴り成分」が響くかがポイント。低レベルなシステムで聞くと、リム・ショットの金属成分ばかりが耳につき、チープに聞こえてしまいます。今回も、その差はバッチリ聞けました。
3 で、音質はどうか?
通常のCD(44.1kHz/16bit)との比較では、明らかにApple ロスレス・ハイレゾが上まわりました。特に、高音成分で違いが顕著。ドラムやパーカッションの金モノ系の「キラめき」、ヴォーカルの「艶」、リバーブの減衰成分の「きめ細かさ」といったところでは、さすがハイレゾ。全体的な音像の「キレ」、音場の「広がり」といった点でも、CDとは(ましてMP3などの圧縮音源とは)比較になりません。
また、もともと所有していたハイレゾ音源との比較では、ほぼ同じと感じられました。
これは当たり前と言えば当たり前でしょう。Appleはハイレゾ化に際し、自らファイル変換等の作業をするわけではなく、各レーベルから既にハイレゾ化された楽曲ファイルを調達し配信するだけなんでしょう。なので、そこで聞けるハイレゾ楽曲の音質は、自ずと「既に市場に出回っているハイレゾ音源」と同じものになるに違いありません。
尚、筆者はむしろマスタリングの違いによる差が大きいのではと考えているので、アルバムの比較は、なるべく同じ年度にリリースされたバージョン(おそらく同じマスタリングやリマスタリングが施されている)を対象として選びました。
4 分かりにくかったのが?
Apple ロスレス・ハイレゾには、800万曲の「ハイレゾ音源」があるのですが、それでも全体の1割強しか該当しないので、これを見つけるのがひと苦労なんです。希望のアーティストのアルバムや楽曲を選び、そこに「ハイレゾ・ロスレス」の表記があればそうだということ(左の表記の下のほう)。
筆者の場合、もともとハイレゾ化されているアルバムを狙って検索したので、ほとんど漏れなくハイレゾ楽曲を見つけられたのですが、そうでない場合、ハイレゾ化している作品に出会うかどうかは、「運と勘」しかないように思います。Apple Musicの方で、「ハイレゾ楽曲の一覧表」のようなページを設けてくれたらいいのにな、と思います。
5 何がダウンロードされるのか?
ハイレゾの楽曲は、通常、FLACなどのファイル形式が多いのですが、Appleのハイレゾは違います。Apple独自の映像ストリーミング・プロトコルである「HLS」という形式のファイルを使い、ダウンロードでもストリーミングでも、これを通じ認証や暗号処理をした上で聞くことになります。
よってこれは、実際はストリーミングそのものとも言えます。ダウンロードとストリーミングの違いは、その音楽ファイルを端末側(iPhoneなどに)に置くか置かないかの違いがあるだけ(IT用語的には究極の「エッジ・コンピューティング」の世界とも言える)。Wifiやモバイル通信を止めたり、Apple Musicからログアウトしたら、ダウンロードしたファイルもたちまち聞けなくなってしまいます。
また当然のことながら、ダウンロードしたHLSファイルを他のパソコン等にコピーしても、音楽を聞くことはできません。
そういう意味では、「楽曲を所有したい」という、筆者のようなCD世代の欲求からは、大きなマイナスとなってしまうでしょう(もちろん、日常ストリーミングで聴いている世代には、なんの違和感もないでしょうが)
6 MACとの連携は?
筆者は通常、Macをメディアセンターとして、すべての映像・音像ファイルを一元的に管理した上で、必要に応じiPhoneと同期し、ファイルを転送し、視聴しているのですが、Apple ハイレゾではそれができないように思えます。すなわち、MACにダウンロードしたハイレゾ・ファイルを、Apple Musicを使ってiPhoneと同期しようと思っても、iPhone側でそれを認識しないのです。そこで、iPhoneに直接ハイレゾ・ファイルをダウンロードして聞くしかないのですが、これでは非常に不便です。どこか使用方法がまちがっているのかもしれず、もう少しチェックしてみますが、何か方法をご存知でしたらぜひ教えて下さい。
以上、Appleのロスレス・ハイレゾ環境は、やはり、これからの多くの人々の音楽体験を変えていくのだと確信しました。
最後に、今回は、これも話題の「ドルビーアトモス空間オーディオ」については触れませんでした。そもそも筆者は以前より、5.1チャンネルなどいわゆる「サラウンド系」を「邪道」とみなしており、興味がほとんどないのです。どうか悪しからず。
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