<2022年5月29日:アップデート>
アントニオ・カルロス・ジョビンやジョアン・ジルベルトらが創始したブラジル音楽こそが「ボサノバ」。そのボサノバをひたすらポップに味付けし、世界中に広めて行ったのが、ゼルジオ・メンデスと言えると思います。
今年2月で81歳となったセルジオ・メンデスが、音楽活動を始めたのは1950年代のこと。1966年に「セルジオ・メンデス & ブラジル’66」を結成し、アメリカをはじめとする世界進出をいよいよ本格化させたのでした。
デビュー・アルバムからのシングル「Mas Que Nada(マシュ・ケ・ナダ)」は、いきなり全米AC (アダルト・コンテンポラリー・ソング)4位のヒットとなり、その後、世界中でランキング入り。日本でも、その名前が知られることになります。
それではまず、その記念すべき大ヒット曲、「マシュ・ケ・ナダ」をどうぞ:
ドラム、ベースとピアノというシンプルな構成なのに、セルジオ・メンデスの洗練されたアレンジで、ここまでゴージャスで躍動感あふれるサウンドに。その鍵を握るのは、魅力的な女性ボーカルでありました。
ツイン・ヴォーカルをリードするのはラニ・ホール(黒髪のかた)です。
ラニ・ホールは、高度な歌唱力に情感たっぷりの表現力をあわせ持ち、ここぞと言うときは、まさにラテン系の、強烈にパンチの効いた歌い回しで聞き手を魅了します。初期セルジオ・メンデスの成功は、まさに彼女の歌唱力の賜物、と言っても良いでしょう。ラニは、のちに、所属するA&Mレコードの社長ハーブ・アルパートと結婚し、セレブの地位までも上り詰めます。
それでは、その素晴らしいヴォーカルをフィーチャーした楽曲をご紹介しましょう。
まず、バート・バカラックのナンバー「ルック・オブ・ラブ」。ラニ・ホールの情熱的なヴォーカルが曲全体をリードします。1968年、全米4位。セルメン最大のヒット曲となりました:
続いて、ビートルズの「フール・オン・ザ・ヒル」。もとからボサノバ・ナンバーだったんじゃないかと思わせるほどハマり切ったアレンジで、「ビートルズ・カバー曲の最高峰」とも言われています。その鍵を握ったのも、ラニ・ホールにリードされるメリハリの効いたヴォーカルです。全米6位。同曲をフィーチャーしたアルバムは、1968年、全米3位までのぼり詰めました:
世界中のヒット曲をボサノバ仕立てにするのは、セルメンの一番の得意技。このサイモンとガーファンクルの「スカボロー・フェア」も、壮大で幻想的な素晴らしいボサノバ・シンフォニーに仕上がりました。オーケストラ・アレンジはデイブ・グルーシン。全米16位。:
セルジオ・メンデスは「セルメン」の愛称で多くの日本のファンもゲット。何度も来日してくれました。
1970年の大阪万国博覧会での記念ステージはライブ・アルバムにもなりました。冒頭を飾るバカラック・ナンバーの「世界は愛を求めている」と「プリティ・ワールド」のメドレー。ラニ・ホールとカレン・フィリップの熱唱と共に、素晴らしい盛り上がりを魅せてくれます:
ということで、筆者にとってセルジオ・メンデスとは、まさにこのラニ・ホールの在籍時、1971年のアルバム「Stillness」まで、計8枚を頂点としております。
事実、その後やや息切れ気味になったセルメンですが、1983年にソロ名義で出した「愛をもう一度/Never Gonna let You Go」を、ふたたび全米4位の大ヒットに送り込みます。
AOR調の曲づくりでアレンジャーとプロデューサーに徹し、まだまだやって行けるところを世界中に示したセルメン。しぶといです!
さてセルメンは、2000年代になってもヒットを飛ばして世界を驚かせます。曲はやっぱり「マシュ・ケ・ナダ」。あのブラック・アイド・ピーズと組んで、ラップも入った新バージョンで大成功です。ますます元気なセルメン!
ただ、ブラジリアン・ミュージックの正統派からすると、セルメンなんて「許せない!」っていう声も多いんでしょうね。「世界中に媚(コビ)を売って、祖国ブラジルの音楽を堕落させた」とか?。しかし、ブラジル音楽の楽しさと素晴らしさを世界中に広めたセルメンの大きな貢献は、素直に認めてあげたいんです。
セルメンよ、永遠なれ!
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