ポップスは、聴きやすくて歌いやすい音楽ですけれど、必ずしも「作るのが簡単」な音楽ではありません。
限られた時間内に、キャッチーで覚えやすい要素を盛り込み、多くの人に愛される曲を創り込む。
アメリカン・ポップスの伝統は、洗練されたワザで織り上げられる、まさに職人芸の世界なんです。
ザ・カーペンターズは、特に「理想のポップスを構築する」ということに関しては、ほかに並ぶ者のいない不滅の存在だと思います。
1969年、「涙の乗車券/Ticket To Ride」でアルバム・デビュー。カーペンターズの魅力は登場の時点で既に確立していました。
若さにあふれるリチャードとカレンのカーペンター兄弟。全体を取り仕切るのは兄リチャード・カーペンターです。
あくまで繊細に上品に。どの曲も完璧なアレンジで、カーペンターズ・サウンドに昇華されきっている。その「創り込み」は、時としてパラノイアの領域に。妥協を知らないプロフェッショナリズムに、ただただ脱帽です。
そしてカレン・カーペンターは、当時、たった19才。カーペンターズの魅力の核心は、カレンのヴォーカルにあるのは間違いありません。ひたすら清らかに、折り目正しく、神々しいまでのアルト・ヴォイス。。その声に、かすかにただよう「孤独」の影。あとから思えば、色々深読みできてしまいそうな、そんな独特なメランコリー感に満ちていました。
同アルバムは全米150位と、チャート的には振るいませんでしたけれど、大ブレイク以前のカーペンターズの、まさに鮮烈な、清々しい魅力にあふれた作品として忘れることができません。
それでは、同アルバムよりデビュー・シングル『涙の乗車券』をお聞き下さい。ビートルズの名曲に果敢に挑戦し、二人でしっかりカーペンターズらしい楽曲を造り上げました:
1970年、2枚めのシングル『遥かなる影/(They Long To Be) Close To You』は全米1位(4週連続)、グラミー賞2部門受賞(最優秀新人、ベスト・ヴォーカル・パフォーマンス)と、まさに大ブレイク。同名のアルバムも全米2位,200万枚突破の大ヒットとなりました。
久我が、完璧にカーペンターズにハマってしまったのも、まさにこの曲から。ただひたすら切なくて、美しくて、もうなんも言えん!:
続くは『愛のプレリュード/We’ve Only Just Begun』。これも全米2位の大ヒットとなり、カーペンターズの人気はしっかり確立されます。ロジャー・ニコルズの名曲を、よくぞここまで練り上げました。何度聞いても、目頭が・・・。あらためて、どうぞ!:
1971年に発表された3作目のアルバム「カーペンターズ」は、成功をがっちり手にした彼らが、じっくり作り上げた堂々たる作品。2週連続全米2位。400万枚突破。
『スーパースター』、『二人の誓い』と並ぶ『雨の日と月曜日は』。一切のギミックを排した、シンプル極まりない楽曲が、ここまで格調高く美しく仕上がりました。全米2位:
カーペンターズのその後の快進撃は、ご説明するまでもないでしょう。
全米トップ20以内を列挙するだけでもこれだけのリストになります(曲目の後の数値は全米ランキング):
1970 遙かなる影 – “(They Long to Be) Close to You” 1
1970 愛のプレリュード – “We’ve Only Just Begun” 2
1971 ふたりの誓い – “For All We Know” 3
1971 雨の日と月曜日は – “Rainy Days and Mondays” 2
1971 スーパースター – “Superstar” 2
1972 ハーティング・イーチ・アザー – “Hurting Each Other” 2
1972 小さな愛の願い – “It’s Going to Take Some Time” 12
1972 愛にさよならを – “Goodbye to Love” 7
1973 シング – “Sing” 3
1973 イエスタデイ・ワンス・モア – “Yesterday Once More” 2
1973 トップ・オブ・ザ・ワールド – “Top of the World” 1
1974 愛は夢の中に – “I Won’t Last a Day Without You” 11
1974 プリーズ・ミスター・ポストマン – “Please Mr. Postman” 1
1975 オンリー・イエスタデイ – “Only Yesterday” 4
1975 ソリテアー – “Solitaire” 17
1976 見つめあう恋 – “There’s A Kind Of Hush” 12
1981 タッチ・ミー – “Touch Me When We’re Dancing” 16
そして1982年2月4日、32歳の若さで亡くなるというショッキングな生涯を遂げたカレン・カーペンター。
いつまでも健康で、幸せなオール・アメリカン・ファミリーのイメージを引きずった彼女の心の深淵を想うだけで、心が痛みます・・・。
「メイド・イン・アメリカ」は1981年発表。カレンの存命中にリリースされた最後のアルバムです。迷いを完全に吹っ切ったようなポップ王道路線への回帰は、リチャード・カーペンターのつきることの無い鉄壁アレンジにも助けられ、至高の完成度に到達しました。
同アルバムより『遠い想い出/Those Good Old Dreams』をお届けし、あらためて、カレンを偲びたいと思います:
アメリカン・ポップスのひとつの頂点として、ザ・カーペンターズはこれからも多くの人に愛され、聴き継がれて行くことでしょう。
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