アンディ・フレイザー

Andy+Fraser+-+...In+Your+Eyes+-+LP+RECORD-337053「ファンキー」というのはブラック・ミュージックの専売特許ではありません。

イギリスのブルース・ロック・バンド「フリー」のメンバーとして、アンディ・フレイザーは、そのファンキーなベース・プレイと、類まれなる作曲能力でフリーをトップ・グループのひとつに押し上げました。

フリーは1968年、4人の若者(当時全員十代!)により結成されます。

1970年、「オールライト・ナウ」の世界的ヒット(全英2位、全米4位)で大ブレイク。アルバム「ファイアー・アンド・ウォーター」も全米17位まで駆け上りました。

ポール・ロジャースのブルージーなヴォーカル、故ポール・コゾフの「泣きのギター」が人気を集めますが、実は最も評価したいのはアンディ・フレイザーのベースなんです。

アルバム4作目「ハイウエイ」からのシングル、「ザ・スティーラー」を聴いてください。

サイモン・カークの贅肉をそぎ落としたドラムと一緒に入って来るベースは、それほど特別なことをしているようには聴こえません。しかし、聴けば聴くほど、その作り込まれたフレージングに驚嘆します。バス・ドラムと微妙にタイミングをずらすことによって、何ともいえない心地よいファンキーなグルーブを生み出しているのです。

ファンキーとは何でしょう?

それは、単純に言うとリズムが「ハネる」ことなんですが、逆に「ファンキーでない音楽」というのはどういうモノでしょうか?。

例えばディープ・パープル。特に、イアン・ペイスのドラム。ファンキーさ即ち「ハネる感じ」というものが一切なくて、時間軸がどんどんまっすぐ前に進んで行きます。4小節の四分音符が、きちんと分割された感じ、とでも言いましょうか(もっとも、故トミー・ボーリン在籍時のパープルは若干ファンキーだったですけど)。

一方「ファンキー」というのは、拍子の間隔を等分しないことによって生み出すことができます。

どこかにタメと突っ込みの山があり、そこでリズムが「ハネ」ることによって独特のグルーブが生まれます。ソウル、R&Bやダンス・ミュージックはみな「ファンキー」に決まっていますし、ジャズの「スウィング」も同じです。早い話が、ファンキーとは「ノリがいい」ってこと。ブラック・ミュージックの神髄そこにあります。

アンディ・フレイザーの弾くベース・ギターは、絶妙なポイントでタメと突っ込みをつくり、単純なブルース・ロックを「黒く」「ファンキー」で「グルーヴィー」な曲に変革しています。このタイミング感は、真似ようと思っても簡単にできるものではありません。フリー加入前、若くしてジョン・メイオールズ・ブルースブレイカーズで活躍したというキャリアからも、アンディ・フレイザーの天賦の才能がうかがえます。

彼の卓越したグルーブは、フリーのどの作品でも聴くことができます。

さらにもう一曲挙げるとするなら、やはり彼らの最大のヒット「オール・ライト・ナウ」でしょう。

特に、ライブ・バージョンにおける中間部でのギブソンSGベースによるソロは、ノリノリな中にも冷静に計算されたグルーブが生きており、ファンキーそのもの。1970年ワイト島でのステージ映像で、どうぞご確認下さい。

フリーはその後分裂してしまいます。

ポール・ロジャースは「バッド・カンパニー」でヒットを飛ばしたり、しぶとく活躍していますが、アンディ・フレイザーはソロ活動も成功せず、長い下積み生活が続きます。

でも、最近またソロ・アルバムを出したり、2013年には来日ステージを披露したり、活動を活発化させているようです。なんとか、彼の「天才」にまた灯の当たる日が来ることを心から祈っております。