大滝詠一『Each Time 30周年』: 謹んで拝聴致しました

SRCL8003 case故大滝詠一氏のまさに「遺作」であるところの『Each Time 30th Anniversary Edition』を謹んで拝聴致しました。

氏の、予想もしなかったご逝去と奇しくも重なり合った、入魂のリマスタリング・プロジェクトの最終作品。当然に日本全国、各界から氏の死を悼む叫びと共に、この『Each Time』への絶賛の声が寄せられております。

そこで、あえて当殿堂としましては『辛口』に・・・。大滝詠一氏も、死して尚、ただ持ち上げられることのみを望んでいなかったことでしょうから・・・。

やはり、あらためて『Each Time』は「大いなる失敗作」でありますね。

日本の音楽史上に輝く世紀の名盤『ロング・バケーション(ロンバケ)』のフォローアップという重責をになって、氏が苦闘の限りを尽くしたこの作品。しかし、どこをどう聴いてもこれはやはり『ロンバケ』の焼き直しにしかすぎません。前作で持ちうる音楽的技量のすべてを完全に出し切ってしまった大滝詠一氏にとって、あとは何一つポケットに残っていなかったということなんでしょう。

そのことを誰よりも悟っていた氏は、リリース後に何度か訪れた複数の再発プロジェクトにおいて、際限なく曲順を入れ替えたり、あらん限りの工夫を凝らしこの作品の再生を試みますが、所詮根っ子のところに問題があるので、その努力も無駄に終わりました。

今回のリマスターも「20周年に比べてどうのこうの」といった比較検討をしてもあまり意味はありません。「純カラオケ・バージョン」を入れたところに、氏の大いなるあきらめと人生最後のサービス精神を感じとれば、ただそれで良いのでしょう。

そして、ここが大滝詇一の恐るべきところなのですが、誰よりも自らの表現者としての限界を認識した末に、氏は以降、実質的に「新たな作品の創造」という自らの生き方を封印してしまうのです。この真のアーティストとしての透徹した自己認識と決然たる選択、これこそが、筆者が氏に対し深い尊敬の念を抱くところの核心であります。

大滝詠一:偉大な音楽家であり、完璧な芸術の実践者。わたくしは決して貴兄のことを忘れません。有り難うございました。

 

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