トーマス・マンは、言わずと知れたドイツの大作家なわけですが、筆者にとっては、ヴィスコンティの『ヴェニスに死す』で間接的に触れたことがある程度で、まさに「敬して遠ざける」存在でした。
でもやっぱり、読まないわけにはいかないと覚悟を決め、遅ればせながら取り組んだんです。
『魔の山』。
岩波文庫、上下二巻、1200ページ以上。
その恐ろしげなタイトルから、ずっと、『ファウスト』のような形而上学的な観念小説の世界と勝手に想像していたのですが、これには激しく肩透かしをくらいました。
舞台は人里離れたサナトリウム。
次から次に現れる個性的な患者たちに、翻弄されまくる主人公。人妻との熱烈な愛から、雪山のスキー滑走、衝撃的な決闘シーンまで、盛り沢山な展開に思わず引きずり込まれ、長編小説を読んでの「我を忘れ度」でいうと、「ボヴァリー夫人」と双璧と言えるほどです。
さらに、ストーリーと関係ない思想や芸術に関する論争にも脱線しまくり、メルヴィルの『白鯨』を思わせるよう。「教養小説」とも言われたのもうなづけます。
ということで、今さらながら、トーマス・マンの魅力にとりつかれ、早速、「トニオ・クレーゲル」と「ベニスに死す」も注文した次第です。
最後に、翻訳についてですが、岩波の旧版が昭和14年、現行バージョンへの改訳が昭和37年と古いけれど、マンの筆致に忠実な重厚なトーンで、古臭さも気にならず、非常に読みやすいと感じました。
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