話題の「日本発」SACDシリーズ。
この前は、スティーリー・ダンの『彩(Aja)』を旧盤のCDと聴き比べ、その圧倒的な違いに、すなおにSACDに軍配をあげたところです(→こちらをご覧下さい)。
さて、今回は同じくスティーリー・ダンの『ガウチョ(Gaucho)』。
『彩(Aja)』に続き1980年に発表された、押しも押されもしない名盤。
「ガウチョ」が「彩」と違うのは、そのオーディオ・フォーマットの多さです。
なにしろ「ガウチョ」は、2000年のCDリマスター以降、2003年のSACD、2004年のDVDオーディオと、すでに色々な高音質フォーマットが発売されています。スティーリー・ダン狂のでんど〜は、当然のことながらすべてのディスクを所有しております(というか、その前のCDも入れれば、全部で6枚の「ガウチョ」・・・)。
これに対し「彩」は、オリジナルのマスター・テープが盗まれてしまったとかで、長いあいだ、通常のCDしか存在しませんでした。
さて、日本発の「ガウチョ」SACDは、これらのすでに存在する高音質ディスクたちに勝つことができるのでしょうか?
まず、この日本盤SACDですが、解説によると、1980年当時「日本盤アナログLP」を販売するためにアメリカMCA本社から送られてきたマスター・テープの「コピー」を使用したそうです。
「コピー」を使っていることには批判があるようで、解説にもクドクド言い訳が書いてあります。要するに、日本のテープは保存状態が良いので、その他の選択枝よりもベターであったと。確かに、オリジナル・マスターは、あまりにもダビングを繰り返したために酸化するところまで行ってしまったと。でんど〜も、この「コピー」というのがどうも許せないのですが、まあ良しとしましょう。
次に、SACDのマスタリングを手がけたのは、松原学というエンジニアで、発売元のユニバーサル・ミュージック傘下の「ユニバーサル・マスタリング・スタジオ」の方。なんと、若干30歳??むむむ。
まあ、名前を明かしたことで許してあげることにしよう。
この松原さんには、イコライザーやコンプレッサー等すべて禁じ手にしたフラット・トランスファーが厳命され、機械による一切の色づけが排除されたそう。オリジナル・テープの音を可能な限り忠実にデジタル化したということで、この点では◎。
で、肝心の判定です。
対象曲は「ヘイ・ナインティーン」。でんど〜が何年もレファレンスに使ってる定番です。
あれ?
う〜ん、これは意外に難しいぞ・・・。
まず、普通のCDとの比較ですが、とりあえず「彩」のような圧倒的な違いが感じられません。
何よりも、この日本盤SACDの音圧がCDよりも低いので、ちょっと肩すかしです。「彩」ではSACDの方が多少音圧あったのになぜなんでしょう?もちろん、くだらない「音圧」競争は排除すべきですが、今回のSACDが、フラット・トランスファーを強く意識するあまり、そういう結果になったんでしょうか?
注意深く聴くと、CDのほうには音のつまった感じがあり、SACDの空間表現に軍配が上がります。ドナルド・フェイゲンのボーカルの生々しさなどでも、違いが感じられます。
続いて、2003年のSACDとの比較です。
なるほど。
このSACDを聴いて、みんな「2003年版の勝ち」と騒いでいるのですね。
2003年版のリマスタリングは、天下のボブ・ラドウィグが担当しました。一流アーティストがみな仕事を頼むボブ・ラドウィグ。それと比較するのは、ちょっと酷ですね。というか、この2003年のSACDは、ボブ・ラドウィグの手の入った別の作品とみるべきでしょう。音圧は巧みに入れ込んでるし、イコライジングなど細かく手が掛けられている、正にプロの仕事です。
その点、2004年のDVDオーディオも同じです。
ただでんど〜は、いくらボブ・ラドウィグといえども、ことスティーリー・ダンに関しては簡単に譲れません。
スティーリー・ダンのエンジニアリングを長く手がけてきたのは、あの名匠ロジャー・ニコルズです。スティーリー・ダンと言えばロジャー・ニコルズ。あの「偏執狂的高音質」の影には、いつもロジャー・ニコルズがいたんです。
そのロジャー・ニコルズがリマスターまで手がけたのが2000年のCDです。
その時点で決定版と呼べる素晴らしい音質でしたし、なによりもその意味合いには特別なものがありました。
ボブ・ラドウィグだろうと誰だろうと、ロジャー・ニコルズのスティーリー・ダンの音をいじっちゃいけないんじゃないかと。
ということで、でんど〜の判定は:
・2000年のCDが、今もって1位。
・次に、そうは言っても「商品として」すばらしい2003年のSACDとDVDオーディオ。
・日本盤のSACDは、健闘むなしく最下位。ひたすら正直に、なにも考えずにただデジタル化したというところが、良いとは思えるものの、日本人らしいあまりの愚直さと言うか、プロの仕事としてはどうかということです。しかも4500円という価格はなんでしょう。マニアから金をむしり取るという発想は、もうやめて欲しいです!!!
それにしても今回あらためて聞き込んだスティーリー・ダンの「ガウチョ」。その素晴らしさは、永遠不滅です。ロック・ポップスの分野で、未だにこれを凌駕するものなど存在し得ません。
「彩」とともに、史上最高のアルバムのひとつとして、今後も光り輝く金字塔。
でんど〜はスティーリー・ダンを愛し続けます。
でんど~さん。利き酒ならぬ利きHey Nineteenとはおったまげました。
しかも6バージョンもあるとは知らなかった!
ところで、steely danのroyal scamを買おうと思っているのですが、これも何種類かあるようで。。。
詳しいことわからないのですが、SHM-CDてのにすると普通のCDの3倍の値段です。アマゾンで試聴してPCで聞くだけでも音の輪郭がはっきりしているような気がします。一方、アマゾンのレビューには「普通のCDでよい」という意見もありました。
でんど~さんはどっちがお勧めですか
Me and Mrs Jonesさん:どうもコメントありがとうございます。
“Royal Scam(幻想の摩天楼)” なんて素晴らしい!。”Aja“、 “Gaucho“の次ぎに来るのは間違いなくこれですね。一曲目”Kid Charlemagne(滅びゆく英雄)”でのラリー・カールトンのギター・ソロは彼の生涯ベスト。聞くしかない。人間だったら死ぬ前に一度。
と、いきなり熱くなりすぎております。
さて、まず、SHM-CDですが、でんど〜はこれを全く信用しておりません。日本で生まれた、日本だけで話題になってるフォーマット。それが証拠に、海外では一切無視されており、ビートルズやクイーンなど、最近の優れたリマスター等でも採用される気配すらありません。日本だけのガラパゴスだと思います。
そもそもデジタル信号が、なぜCDの盤質に影響されるのか?そんな非科学的な。試しに、これをiTuneで読み込みiPodで聞くと、SHMの違いはほとんど、というか全く感じられません。
あるとすれば、CDをCDプレイヤーで聴き、スピーカーを鳴らした時。SHMの方が良いという説があります。ただ、これは安モノのCDプレイヤーであるほど効果が大きい。つまり、安モノの光学センサーがひろいきれないデジタル信号を、ある程度補正してしっかりとらえる効果は多少あるのかもしれない。ちなみに、でんど〜は、そういうメリットすらも感じたことはありません。
このようなシロモノなのに、SHM-CDがなぜ日本でだけ語られるのか?これは、悲しい業界の悪あがきで、激減するCD市場でなんとか売上を維持せんがための姑息な戦略だと思っています。はっきり言って。ですから、業界全部で、業者も評論家もみな「SHM絶賛」しかない。悲しいです。
そんなものに高いお金をはらう必要はありません。
Me and Mrs Jonesさんが、「(SHMの)音の輪郭がはっきりしているような気が」というのは、CDの種類の問題ではなく、リマスターの問題だと思います。ただ、この「輪郭がはっきり」というのが、これまたくせ者で、以前にも書きましたが、これは、「日本人の日本人によるリマスター」のせいではないか?つまり「すっきりさわやかキレがいい」という、日本人好みの音質のことです。
つまりこの議論は、「そもそも良い音というのは何か」という問題に突き当たります。みんな、そもそも「本当に良い音」というのを聞いたことがあるのだろうか?という問題です。もちろん、これはでんど〜自らの戒めでもあります。
ということで、「Royal Scam」の推薦盤は、迷うことなく1999年のリマスター。名匠ロジャー・ニコルズによるリマスタリング。スティーリー・ダン本人による監修バージョン。これしかありません。少しでもオリジナル・マスター・テープに近いアメリカMCA本社盤が良いでしょう。例えば、アマゾンだと1570円でお求めになれます。→Royal Scam
もちろん日本語の解説や歌詞が欲しい場合は日本盤しかありませんが、でんど〜はそんなもので無理やりつけられる付加価値は一切不要と思っております(それでも日本盤も一応持ってるけど!「摩天楼」は全部で4枚!)
以上、極端な意見と自覚しつつ、心からの「本音」をお書きしました。少しでもご参考になれば幸いです。
今後ともよろしくお願いします。
でんど~さん、ご丁寧な解説ありがとうございました。SHMというものの背景がよ~くわかりました。良い音とは何かってむずかしい話しですね。むか~し、漫画「おいしんぼ」が「こくがあるのにキレがある。」で売れているビールはビールなんかじゃないと批判していたことを思い出しました。おかげさまで3,000円浮きます。CD2枚買えます。(笑)
Me and Mrs Jonesさん:どうも恐縮です。「摩天楼」の感想を、またぜひお聞かせ下さい。さらに良かったら、その次は「うそつきケイティ/Katy Lied」です。マイケル・マクドナルドの実質デヴュー、故ジェフ・ポルカロのドラミングに涙します。