四人囃子の「一触即発」を、日本のロック史に残る傑作と言い切ることにためらいはありません。
70年代前半の日本のロック・シーンは混沌としていました。
多くのバンドが生まれ、コンサートを開き、個性を競っていたのですが、欧米のロックの最前線と比べれば実にお寒い状況でした。
筆者が四人囃子をはじめて見たのはいつか正確には想い出せませんが、どこかの大学の学園祭でした。
一曲目はピンク・フロイドの「シンバライン」。全体にエコーをかけた幻想的な雰囲気に、ハモンド・オルガンがダイナミックにコードを奏で、雄大なサビを迎えたあと、まさにデイブ・ギルモア張りのギター・ソロがスペイシーに飛び出したあたりで、完全に持って行かれちゃったんです。
ライブの最後を飾るのはオリジナルの大作「一触即発」。日本のロック界にもついにホンモノが生まれたんだと、やたらに感動したのを覚えています。
四人囃子の中核はギターの森園勝敏。ブルースやR&Bをベースにした高いギター・テクニックと共に、ハスキーなヴォーカルの持ち主。ドラムの岡井大二も、バンド全体をエネルギッシュに引っ張って行きました。
彼らの本格的レコード・デビューは1974年の本作です(実質デビューは1973年のサントラ版「二十歳の原点」)。
なにしろ当時の日本のバンドは、ライブが良くてもレコードになるとからっきし駄目でした。何故かライブのリアルなパフォーマンスをアルバムに落とし込むことができなかったんです。
しかし、この「一触即発」には、四人囃子がライブで蓄積したバンドとしてのエッセンスが、迫力満点に「レコード」というメディアに封じ込められており、まさに奇跡的なアルバムとなりました。
「おまつり」はライブの定番ナンバー。内省的で幻想的な「ピンポン玉の嘆き」。ポップな「空飛ぶ円盤に弟が乗ったよ」。そしてアルバム・タイトル曲の「一触即発」は、12分以上の曲構成と高度なアレンジの本格的なプログレッシブ・ロックの大作。
全体のムードを醸し出すのに多いに貢献していたのが、専属作詞家の末松康生のシュールな歌詞でした。
それでは、当時ステージの人気曲で、アルバムのボーナス・トラックにもなった『空飛ぶ円盤に弟が乗ったよ』をお聞きください:
四人囃子の成功の鍵は、森園勝利のこの言葉に凝縮されています。「僕らは当時プログレッシブ・ロックをやってるっていう意識はあんまりなかったんだ。どっちかって言うとオールマン・ブラザース・バンド的なアンサンブルをやってるつもりだったんだよ」ということ。つまり、あくまでベーシックなロックをしっかり自分のものとした上で、ひとつの方法論として「プログレ」を活用していたということ。
ただやみくもにジャンルとしてのプログレに模倣的に取り組んで行った日本のほかの「プログレ・バンド」とは、完全に一線を画していたと言えましょう。
当時の日本の音楽状況において、このように画期的な作品を生み出しえたことを、ただ、すなおに喜びたいと思います。
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さて森園勝敏は本作以降、さらにレイド・バックしたアメリカン・ロック志向を強めていき、次回作「ゴールデン・ピクニックス」を最後に脱退してしまいます。これもバラエティーに富んだ傑作ですが、独特な「混乱」が支配しているのが残念でもあり、面白くもある異色作です。
佐久間正英という異能の士を加え、四人囃子はさらに道を切り開いて行くのでした。
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<一触即発>
リリース:1974年
収録曲:
- ham[ae]beθ
- 空と雲
- おまつり
- 一触即発
- ピンポン玉の嘆き
- 空飛ぶ円盤に弟が乗ったよ(ボーナス・トラック)
- ブェンディア(ボーナス・トラック)
メンバー:
- 岡井大二(ドラムス)
- 森園勝敏(ヴォーカル、ギター)
- 中村真一(ベース)
- 坂下秀実(キーボード)
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