ブロウ・バイ・ブロウ / ジェフ・ベック

photo_18ジェフ・ベックとエリック・クラプトン、そしてジミー・ペイジの三人のことを「三大ギタリスト」って言うのは、日本だけの現象のようですね。

ヤードバーズ出身という共通項を持つ3人ですが、その後の人生は「色々」ってことになりました。

名実共にビッグ・スターとなって稼ぎまくったのはエリック・クラプトン。

レッド・ツェッペリンを率いて世界を征服したのがジミー・ペイジ。

そして、ジェフ・ベック・・・。

ジェフはいわゆる「スーパー・スター」ってことでもないので、3人の中では一番ビンボー(?)。

でも、「ギタリスト」として歴史の中に刻んできたものは、三人の中で一番大きかったかもしれません。

しかも、ジェフはまだまだ現役バリバリで、新たな挑戦を続けているんです。

 

ジェフ・ベックの歩んできた道のりは、決して順調な一本道ではありませんでした。

ヤードバーズを飛び出したのが1966年。ロッド・スチュワートを引き入れ「第一期ジェフ・ベック・グループ」を結成したのに仲間割れ。元ヴァニラ・ファッジのティム・ボガートとカーマイン・アピスで、スーパー・グループを作る計画も、ジェフの交通事故でおじゃんになってしまいました。

1971年には心機一転、「第二期ジェフ・ベック・グループ」を結成。ジャズっぽくてファンキーなジェフの個性が花開きかけたのに、やっぱり解散。その後、昔の夢よもう一度と「ベック、ボガート&アピス」を結成しましたが、ジェフの「ヘヴィ・ロック・バンド」への情熱はもう冷めていたんです。

そんなジェフ・ベックが、自らの進むべき道をじっくり考えなおし、1975年、満を持して世に問うたのが、この『ブロウ・バイ・ブロウ』でした(邦題は『ギター殺人者の凱旋』という途方もないもの・・・)。

全曲インストゥルメンタル。斬新なジャズ・ロック的アプローチ。縦横無尽の驚異的なギター・テクニック。ジェフ・ベックの個性は、このアルバムで完全に確立しました。

記念すべき一曲目を飾るのは、ファンキーそのものの「You Know What I Mean」:

ジャンルを越えたインストゥメンタル・ミュージック、つまり「フュージョン」を、当時は「クロスオーバー」と言っていました。

ジャズ側からロックへのアプローチは、ジョン・マクラフリン率いる「マハビシュヌ・オーケストラ」などから。一方、ロック側からジャズへは、まちがいなくこの「ブロウ・バイ・ブロウ」から開始されたんだと言えます。ジェフ本来の個性である「ファンキーでブラックな持ち味」も加わって、真にフュージョンなアルバムが生み出されました。

ジェフのこの画期的な転進を取り仕切ったのが、ジョージ・マーティンです。

今さら申すまでもなく、ジョージ・マーティンはビートルズのプロデューサーとして「5人目のビートル」とまで言われた大プロデューサー。この作品においてもその職人芸をいかんなく発揮しました。彼がマハビシュヌ・オーケストラのプロデューサーを努めたという事実も、ジェフ・ベックとの「クロスオーバー」の源となりました。

ジョージ・マーティンの本作における貢献を具体的に挙げれば:

  • 得意のストリングスで、楽曲を格調高く盛り上げるなど、絶妙なアレンジ。
  • ビートルズやスティーヴィー・ワンダーの曲など、抜群の選曲。
  • 歌がないのに、飽きずに聴かせるポップな工夫(トーキング・モジュレーターでロボット・ヴォイス的にフィーチャーしたり)、などなど。

ジョージにがっちりサポートされ、ジェフはひたすらギター・プレイに集中することができたんです。

良く知られた事実ですが、ジェフ・ベックは楽譜が読めません。

まさに、本能で弾きたおす自由奔放な野生の魅力。一方、経験豊かなジャズ・プレイヤーにも決してひけを取らない猛烈に高度なテクニックを武器に、スリリングな演奏を連発。決して聴き手を飽きさせることはありません。

脇を固めるスタジオ・ミュージシャン達も超優秀です。

中でも、マックス・ミドルトンの繰り出すフェンダー・ローズ・ピアノはジャジーなムードにあふれ、このアルバムのもうひとつの個性になりました。

楽曲的には、何と言っても「スキャッター・ブレイン」でしょう。

4拍/5拍と繰り返す変拍子。緊張感みなぎる中を、トルネード(竜巻)を思わせるテーマが繰り返し現れ、ストリングスが密接にからみついて来る。ドラムが軽快にピッチを上げると、ジェフが縦横無尽に暴れまくります。そしてマックス・ミドルトンの洗練されたピアノ・ソロに引き継がれ、さらに疾走していく・・・。

あらためて聴いてみましょう:

ノリノリの「フリーウエイ・ジャム」。ロック小僧がみんなコピーしたバラード「哀しみの恋人達」。ポップな「シーズ・ア・ウーマン」。ファンキーな「分かってくれるかい」などなど。どれもみな最高にかっこいいんです。

そして、最後を締めるのは「ダイヤモンド・ダスト」。荘厳な、格調高い楽曲は、やはりジョージ・マーティンの貢献大と言えましょう。

全米4位。プラチナ・アルバム獲得。「ブロウ・バイ・ブロウ」は文字通りジェフ・ベックの最高傑作となりました。

その後、フュージョン・ミュージックは大きく花開いて行きますが、本作のようにロック界からアプローチした作品でこれだけのレベルに達したものは、絶無だと言って良いかもしれません。

 

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現役バリバリで、色々なコラボレーションや新作アルバムのレコーディング、ソロ・ツァーなど精力的に続けているジェフ・ベック。2014年4月には、再び来日公演も行ってくれます。

ジェフ、これからも元気に頑張って!

 

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