いきなり唐突で申し訳ありませんが、ウェザー・リポートの『ヘヴィー・ウェザー』こそ、久我のオールタイム・ベストであります。
ジャズ、ロック、ポップ、クラシックなどあらゆるジャンルを超えて、生まれてこれまで聞いてきた音楽の中で『一番』ということ。
人類が生んだ、『史上最強の音楽』と心から信じており、その想いは、今も決して揺らぐことはありません・・・。
ウェザー・リポートは、マイルス・デイヴィス・グループに在籍していた ウェイン・ショーター(サックス)とジョー・ザヴィヌル(キーボード)の2人が中心となり、1971年に結成されたジャズ/フュージョン・バンドです。
彼らの音楽は、ジャズという枠を完全に超えています。
ひとことで言えば「シャングリラ(桃源郷)」。
広大な空間が広がり、透明な美しさに満ちあふれ、謎めいた予感が語りかける・・・。だれも訪れたことのない秘境が、貴方の目の前にせまって来るんです。
それは、単にエキゾチックといったレベルをはるかに超え、とおりいっぺんのワールド・ミュージックが裸足で逃げ出すしかないような世界。
音楽の表現力というものは、ここまでの可能性を秘めているのだと、思い知らされます。
ウェザー・リポートが1977年に発表した『ヘヴィー・ウェザー』は、彼らのまさに絶頂期を画するアルバムです。
ザヴィヌルとショーターの双頭コンビに、天才ベーシスト、ジャコ・パストリアスが加わり、奇跡が生まれました。
全体の指揮をとるのは故ジョー・ザヴィヌル(2007年没、享年75歳)。
彼は、まるで物理学者のような風貌のオーストリア人。ウェザー・リポートひとすじに、孤高の世界を作り上げて行きました。
シンセサイザー等あらゆるキーボードを完全に自分のものとして消化しきっており、機械臭さのまったくない有機的でユニークなサウンドを作り上げました。
そのジョー・ザヴィヌルの音楽性の集大成ともいえる曲が、アルバムの冒頭を飾る「バードランド」です。
まさに、シンセサイザー版ビッグ・ジャズバンドと呼べるポップな世界。すでにスダンダードとしても定着しており、マンハッタン・トランスファーやクインシー・ジョーンズらの楽しいバージョンも聴くことができます。
ぜひ、お聴きください:
そして、このアルバムを特別のものにしているのが、ジャコ・パストリアスです。
ジャコこそ「史上最高のベーシスト」と言い切ってしまいましょう!
ベースの革新はジャコによって成し遂げられました。いったい何人のベーシストが、彼のフレットレス・ベースの技を盗もうとして来たことでしょう。
ジャコも、もうこの世にはいません(1987年没、享年35歳)。
しかし、ジャコは永遠に不滅です!
ジャコ・パストリアスの偉大さは、単にそのベース・プレイにとどまりません。
作曲からプロデュースまで、音楽をトータルに創造して行く総合的なミュージシャンとしての才能。ジャコがその実力を存分に発揮したのが、本アルバムの最後を飾る「ハヴォナ」です。
かつて聞いたことのなかった驚異的なベース・ソロにまず耳を奪われますが、本当に画期的のはこの曲そのもの。今までに誰も聞いたことのない音世界が、そこに提示されています。
どこまでも、どこまでも飛翔して行く・・・・。
ぜひ、あらためてお聞きください:(⇒ジャコパストリアスについては、こちらもご覧ください)
そしてウェイン・ショーター。
ジョー・ザヴィヌルの影にちょっと隠れて、いつもやや目立たない感じのショーターでしたけれど、その実力はまさに折り紙付き。ウェイン・ショーターのすごさは、そのサックスの腕前に加えて、作曲能力がずば抜けていること。このアルバムでも、「ハーレクイン」と「パラディウム」の二曲を提供しており、そのミステリアスで無国籍な個性に一度ハマると、決して抜け出せなくなります。
ウェイン・ショーターのテナー・サックスをフィーチャーしたこの曲も、忘れちゃいけません。珠玉のバラード『お前のしるし/A Remark You Made』。もはや、ジャズだろうと何だろうと、いかなるジャンンルを超越して、限りなくひたすら美しいです・・・:
そして最後に、ライブ映像から。
ジョー・ザヴィヌル、ウェイン・ショーター、ジャコ・パストリアスの3人に、ピーター・アースキンがドラムで加わった、『最強メンバー』によるドイツ公演。1978年。
曲は、ジャコが大活躍の『ティーン・タウン』です:
「ヘヴィー・ウェザー」はダウン・ビート誌から五つ星の評価を受け、1977年の「ジャズ・アルバム・オヴ・ザ・イヤー」に選出。加えて、ジャズ界ではめずらしく、全米アルバム・チャートの30位にも入り、プラチナ・アルバム達成(売り上げ100万枚突破)と大きな成功を収めました。
ただ、ウェザー・リポートはこれをピークに、その後徐々に下降トレンドに入ってしまい、アルバムとしては2度とその頂点に復帰することはありませんでした・・・。
同じメンバーが集まっても、特別な何かが触媒として作用しない限り、奇跡は生まれないのかもしれません。そして、そういう意味からも、『ヘヴィー・ウェザー』という画期的アルバの、その「一瞬の真空パック」としての価値が巨大なのだと思います。
⇒ ウェザー・リポートの造り上げた歴史的名盤『ヘヴィー・ウェザー』はAmazonでお求めいただけます:(多くのバージョンが発売されていますが、この現行リマスター盤で全く問題ありませんので)
もし「ヘヴィー・ウエザー」がお気に召したら、その前作「ブラック・マーケット」、あるいは前々作「テイル・スピニン」と聞いてみて下さい。絶頂に至るカウント・ダウンのすばらしさは、まさに至福の時を貴方にもたらしてくれます。
フュージョンは、その後「スムーズ・ジャズ」といった聞きやすい音楽にどんどん変質して行ってしまいました。実に残念・・・。本当にフュージョン(融合)と言える革新的な音楽は、ウェザー・リポートのほかには、ハービー・ハンコックやチック・コリアといった、限られた王者たちのみによって生み出されていったんです・・・。
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