ボサノバをはじめとするブラジル音楽は、日本にも完全に定着しました。
おしゃれな耳ざわりの良い音楽として、ドライブしながら聞いたり、プール・サイドで流したり、とっても心地良いです。
でも、ボサノバに限らず、ブラジルの音楽はとてつもなく奥が深いんです。高度なコード進行、複雑なリズム構成など、ジャズやポップスにも多大な影響を及ぼしており、「地球上で最も洗練された音楽」と言い切ってしまっても良いとすら思えます。
アントニオ・カルロス・ジョビン ( 1994年12月8日没)は、まさにそのブラジルを代表する音楽家です。
略して『トム・ジョビン (Tom Jobim) 』の愛称でも呼ばれる彼は、1950年代の後半に『ボサノバ』というジャンルを創生し、「ボサノバの父」とも言われる存在。多くのヒットを生み出しただけでなく、世界中のミュージシャンに多大なる影響を及ぼしました。
1964年にジャズ界の大御所スタン・ゲッツと共演したころから、アントニオ・カルロス・ジョビンの影響力はブラジルの国境を越え、世界中に広がって行きました。 彼の残した名曲の数々は世界中で無数のカバーを生み、例えば代表曲の「イパネマの娘」は、ビートルズの曲に次いで、カヴァーするアーティストの数が多いといわれているほどです。
ジョビンの遺した数多くのアルバムは、すべて文句なしに素晴らしいです。
初期の、とつとつとしたボサノバ歌集は、ギター、ピアノなどのシンプルなアンサンブルでとても味わい深いです。
また、世界に打って出たCTIレーベルでのインストゥルメンタルの連作も聴きのがせません。後期の「パッサリン / Passarim」、「テラ・ブラジリス / Terra Brasilis」など、重層的なアレンジに渋いヴォーカルとコーラスがからみ合う作品群も感動的。歌姫エリス・レッジーナとの共演盤も素晴らしいのひとことです。
さて、そのアントニオ・カルロス・ジョビンの多くの名作から、ひとつだけ選ぶというのは至難の業なのですが、ここでは、彼の比較的後期1976年の傑作『ウルブ / Urubu』を採り上げたいと思います。
「ウルブ」とは、アメリカ大陸に生息するコンドルの一種「ヒメコンドル」のこと。大いなる自然に目を向けたジョビンのエコロジー的な発想もうかがえるこのアルバムは、彼の洗練された音楽性が最も色濃く出ている異色作です。プロデューサー/アレンジャーにジャズ界の大御所クラウス・オガーマンを迎え、ジョビンのメロディーを華麗なるオーケストレーションで彩ります。
一切の妥協を廃し、ジョビンの音楽性がひたすら追求されて行く。特に素晴らしいのが、後半4曲のインストゥルメンタルで、ほとんどクラシックの趣きとも言える、限りなく美しい楽曲となっています。
あの坂本龍一教授も、数あるジョビンの作品の中から「ウルブ」を一番好きなアルバムと挙げているんです。
とにかく、一曲聞いていただきましょう:「Saudade do Brasil」。この透明感あふれる美しいインストゥルメンタルに、きっと皆さんもハマってしまうことと思います。
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さて、アントニオ・カルロス・ジョビンが気に入ったら、ここから先は、さらにブラジルの広大な音楽の平原を旅してみましょう。
イヴァン・リンスは欧米のミュージシャンにも高く評価されており、大いにおすすめです。そのほか、カエターノ・ベローソ、ジョアン・ジルベルトなどなど。
忘れちゃいけないのがセルジオ・メンデス。ブラジル66の「マッシュケナダ」で世界的に大ヒットを飛ばし、今も現役です。コマーシャルに走りすぎたということで、本国ブラジルでは評価が低いようですけれど、やっぱりイイものはイイです。
ブラジル万歳!!
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