ロンドンで行ってみたいたいところはたくさんあるけれど、なにしろこの地名を地図で見つけたら、まっ先に行かずに入られませんでした。
エピングの森(Epping Forest)
あのジェネシスの1973年の名盤『月影の騎士(Selling England by the Pound)』のB面一曲目、11分に及ぶ大作『エピング森の戦い(The Battle of Epping Forest)』の舞台がそこにあるからなんです。
ロンドンの中心部から車で1時間少々。東のはずれにその『森』はありました。南北19キロ、面積2400エーカーにも及ぶ森林公園で、かつては王室のハンティング場として、今はロンドン市民の憩いの場として、しっかり存在していました。
入り口はこんな感じです:
さらに進めば、こんなに広大な丘陵風景が:
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さて、ジェネシスの同曲は、ピーター・ガブリエルが、かつてその公園でギャング間の抗争が発生したという実際のニュースをネタに、フィクションも絡めながら詞の構想を練ったそうです。
それでは、聞いてみましょう:
とにかくまず、この曲の複雑なことに驚かされますね。11分の間にテンポはどんどん変わるわ、転調するわ、不思議な間奏は入るわで、ひたすら目まぐるしく変化し続けます。当時20代の前半だったジェネシスの5人は、コテッジにこもって練習を積み重ねたと伝えられていますが、ここでは本当に5人が一体となり、この難曲を変幻自在に表現しているんです。
いつもどおり、曲の全体的なアイデアを練ったのはトニー・バンクスと思われ、彼のクラシックへの憧憬と多彩なキーボード・ワークがまず光りますが、それを弦楽器でしっかり支えるマイケル・ラザフォードとスティーヴ・ハケット、さらに、変拍子的なアクセントも自在に組み込みながら、その卓越したドラミングで引っ張っていったのは、あのフィル・コリンズでした。
そしてもちろん、このなんとも珍妙なテーマを巧みな詞世界に展開し、多様な登場人物になり切って歌い上げるのは、誰あろうピーター・ガブリエルその人だったのです。
同アルバム『月影の騎士』は、当時全盛だったプログレッシブ・ロックの中においても傑出した完成度と芸術性を誇る作品として、今も、名盤の地位はゆるぎません(アルバム『月影の騎士』についてはこちらをご覧ください)。
このほか『シネマ・ショウ』など名曲ぞろいの同アルバムの中で、『エピング森』はどちらかというと『意欲作』。悪くいうと「やや盛り込み過ぎの失敗作」とみられることもあるようで、事実ジェネシスのメンバーも「(エピング森は)ただひたすら複雑化させること自体が目的化してしまい、うまく行かなかった」とも述べています。
ただ、筆者としては、このなんともユーモラスな曲調、そして、妥協を許さずひたすら突き詰めていった若きミュージシャンたちの純粋なエネルギーという点で、この曲を愛さずにはいられないんです。
とにかく、このいかにもイギリスの田園風景を彷彿させる美しい森の景色に、妙にこの曲がマッチして聞こえて来るような気がして、自分的には大満足だったのでした!(公園事務所の年老いた事務員の方にこの曲のことを聞いたら、「ジェネシスは知っているけど、この森のことを歌ってたなんて知らなかったよ」と喜んでYouTubeで聞いてくれました・・・)
ということで、久我の「ブリティッシュ・ロックの名所めぐり」は、今後も続く(?)のでした。
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