テリー・ボジオ

聴くたびに感動して、胸が熱くなる曲があります。

ロック魂を揺さぶられる」、と言いましょうか。

英国のプログレシブ・ロック・バンドUK」が、1979年に来日し、残したライブ・アルバム。その冒頭を飾るタイトル曲、 「ナイト・アフター・ナイト」です。

開演を待ちかね熱狂した聴衆が、手拍子と共に「UK! UK!」と連呼する中、突然、切り込むようなイントロが噴出!

まさに「脳天杭打ち」そのものの太いリズムで、行進が始まります。

ポリフォニック・シンセサイザーのファンファーレを掲げながら、地を這うベース。

そして、それらの全てを、「人間発電所」として支えるのが、若きドラマー、テリー・ボジオであります。

 

英国で生まれたプログレシブ・ロックも、当時は、すっかり下火になっていました。

「UK」は、その名のとおり、「大英帝国/United Kingdom」が世に問う、プログレ最後の切り札。ビル・ブラッフォードアラン・ホールズワース、キーボードとバイオリンのエディー・ジョブソン、ベースのジョン・ウェットンという、まさにプログレ界の重鎮4人により、1978年に結成されたスーパー・グループでした。

ところが、ファースト・アルバムを出したところで、ブラッフォードとホールズワースの二人が脱退してしまいます。

残された二人が、助っ人を頼んだのが、必殺仕事人テリー・ボジオ。

刀折れ、傷つきながら、たった三人で支える「大英帝国」のたそがれ。その、最後の残り火を振り絞るように、ボジオが全てのエネルギーを注ぎ込みます。

時に大仰とも、時代錯誤とも言われたプログレシブ・ロック。しかし、ここで展開される音楽の持つ「真正面からの熱さ」は、ジャンルを超え、時代を超えて不変だったのではないでしょうか。

 

テリー・ボジオは、1950年7月生まれのアメリカ人。

鬼才フランク・ザッパに見出されたのが1975年。ボジオ24歳のとき。以降、3年間で19枚のアルバムに参加することになります。

なんせ、複雑怪奇なフランク・ザッパの楽曲。ライブでも、一糸乱れぬ演奏技術を要求される厳しい世界で、正ドラマーの地位を守り抜いたテリー・ボジオ。その実力は、折り紙つきと言ってよいでしょう。

2016年にローリング・ストーン誌において、「史上最も偉大な100人のドラマー」の第17位にも認定されたテリー・ボジオ(ちなみに16位はビル・ブラッフォード。トップ100人のランキングはこちらです

久我が、初めてテリー・ボジオに接したのは1978年。ブレッカー・ブラザースのライブ・アルバム「ヘヴィ・メタル・ビ・バップ」でした。

いつもは、スティーブ・ガッドなど、ジャズ・フュージョン系正統派ドラマーで固めるブレッカー・ブラザースが、若きテリー・ボジオを起用。

ベビーフェイスなのにバカテク。ロック寄りだけど、なんでもこなす若手ドラマーのエネルギッシュなプレイに、驚いたものです。

ジェフ・ベックとの共演も、忘れがたいものがありますね。もう、何の説明もいらんでしょう:

テリー・ボジオは、奥さんをフィーチャーして、「ミッシング・パーソンズ」というニュー・ウエイブ系のバンドを結成したこともあります。82年のアルバム「Spring Session M」は、全米17位、ゴールド・アルバムに。奥さんとは、その後別れちゃいますけど・・・。

ところでテリー・ボジオは、なんと言っても、その「とんでもない」ドラム・セットで有名ですね。

コレですこれ。

まず、バスドラが六つ。

六つ?

足、何本あるんだ?

ど派手なドラムセットはよくありますけれど、ここまでものすごいのはいまだに空前絶後でしょう。「史上最大のドラムセットを叩く男」との称号も獲得。もう、ほとんどビョーキ。とにかく、たくさんのタイコに囲まれたい偏執狂とも言えましょう・・・。

 

テリー・ボジオの本質は、その「シリアス」さにあります。

「フランク・ザッパと違って僕が音楽でユーモアを表現することはないな。ザッパはいつだってユーモアたっぷりにしたがっていたけど、僕はそういう気にはなれない。すごく、シリアスに捉えたいんだ。普段はおしゃべりだしジョークも飛ばすけどね(笑)」

どこまでも求道者的に、あくまでも自らの美学に忠実に。

そして、とにかく一切の手抜きなしに。

ひとつひとつのパフォーマンスが、そして、ひとつひとつのショットが、キックが。あたかも「この世の終わり」であるかのような真剣さをもって。

まさに、「入魂」・・・。

 

あらゆるグルーブが「機械」で作り出せる現在、人間がドラムを叩くということに、どういう意味があるのでしょう?

テクニックがあるのは当たり前。スピード、切れ味、パワーの三拍子も不可欠。その上で、「機械」には決してできない「パッション」を表現しきるということ。そして、結果的に、聴くものの「魂を揺さぶる」、ということ。

私は、その答えを提示してきたのがテリー・ボジオであり、ヴィニー・カリウタであると思っています。

その二人が、ともにフランク・ザッパ学校の卒業生であることは、決して偶然でないのかもしれません。

あの「美少年」も、もう68歳。そりゃ歳は隠せないけれど、まだまだ頑張っています。ぜひ、その「空前絶後のドラムセット」をシリアスに叩く「雷神」、テリー・ボジオの勇姿をご覧下さい:

これからも元気に、でっかいタイコを目いっぱい叩き続けてもらいましょう!

 

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