『アビイ・ロード 』ザ・ビートルズ

[2018年9月30日アップデート]The_Beatles_-_Abbey_Road

さて、そういうことで、ビートルズは素晴らしいに決まっています。

「ビートルズのどのアルバムが最高か?」なんて選ぼうと思っても、これは難しい。

というか、「そんなの意味ないじゃん」というたくさんの声が聞こえてきそうです。

はい、ビートルズのアルバムはみんな素晴らしいです。

どれが一番好きか、なんて「人それぞれ」に決まってます・・・。

 

ビートルズのそれぞれのアルバムへの評価は、時代とともに変化して来たように思います。

あらたまって、その「歴史的真価」が問われると、そのアルバムが持つ「時代性」「革新性」が重視される傾向にあるんでしょう。

要するに歴史を変えたかどうかです。

その意味では、 過去の色々な投票結果などでは、「リボルバー」、「サージャント・ペパーズ」、「ラバー・ソウル」あたりが高評価ということで、だいたい相場が決まっています。

たとえば、欧米の主要音楽誌の「歴史的アルバム・ランキング」では、こんな感じです:

  • RollingStone(2004):1位サージャント・ペパー 3位リボルバー 5位ラバー・ソウル 10位ホワイト・アルバム
  • Q (2003) :3位リボルバー 15位サージャント・ペパー 45位ホワイト・アルバム
  • VH1(2000) :1位サージャント・ペパー 6位ラバー・ソウル 8位アビイ・ロード
  • Mojo(1995) :3位サージャント・ペパー 19位ホワイト・アルバム
  • ギネス(1994) :1位サージャント・ペパー 5位リボルバー 10位ラバー・ソウル 15位ホワイト・アルバム

 

ビートルズのこれらのアルバムが、ポピュラー・ミュージックの世界にもたらした衝撃は、否定しようのない事実。

その革新性に誰もが驚きました。

 

ところが、日本だけ、ちょっと違うんです。

アビイ・ロード」の人気が突出してるんです。

例えば、「ニュー・ミュージック・マガジン」が2009年に発表した「アルバム・ランキング・ベスト200」では、「アビイ・ロード」は堂々の第1位です。

 

なんで、日本だけこうなるんでしょう?

 

これについては、大瀧詠一氏の鋭い分析があります:

『日本のミュージシャンにビートルズのフェイヴァリット・アルバムを聞くと『アビイ・ロード』が必ずと言っていいくらい上位にランクされますが、このアルバム発表時期と、「イエスタデイ」が音楽の教科書に採用された時期がクロスします(外国に比べて『ラバー・ソウル』までを挙げる人が異常に少ないのも日本の特徴です)。一旦教科書に採り上げられたとなると、今度は「権威化」から「神格化」にエスカレートし、チョッピリとした揶揄さえ許しがたいものになる、という構図も作られていったのです<レコード・コレクターズ 1995年7月号>』

 

なるほど。大変興味深い・・・。

 

tumblr_l9d5ifhxwd1qzq6guo1_500アビイ・ロードへの評価も、時代とともに変遷がみられます。

69年の発表時、「これぞサージャント・ペパーズと並ぶビートルズの最高傑作!」ということで人気爆発。

ビルボード首位11週間、全世界で1,200万枚を売り上げます(歴代販売枚数ではホワイト・アルバム<1,900万枚>に次ぐ)。

しかしその後、アビイ・ロードの評価は下降トレンドをたどってしまったように思います。

 

で、筆者はどうかと言うと・・・、

ビートルズの最高傑作は、やっぱり「アビイ・ロード」だと思うんです。。。

アルバムの歴史的価値がどうのこうのと言うより、単純に、その作品自体が持つ音楽性そのものがどうか?

現代、そして未来にもつながる「普遍性」があるかどうか?

そういったことを考えたときに、やっぱりアビイ・ロードだと、強く思うんです。

 

「アビイ・ロード」製作の背景について、今さらふれる必要はないと思います。

要するに、解散の決まったビートルズの「(本当の)ラスト・アルバム」ということですね。

中心をになったのは、ポール・マッカートニーでした。

レット・イット・ビーで遠ざかったジョージ・マーティンを呼び戻したのはポール。あの有名な「メドレー」もポール。要するにアビイ・ロードは「ものすごくポール・マッカートニー」なわけです。

この点、「ビートルズの精神性はジョン・レノンにあり!といった立場からすると、「アビイ・ロード」は、ポールの「俗物性」が支配する世界であり、80年代の「産業ロック」のはしりと見るような向きもあります。

確かに「まとまりが良すぎる」、「職人的過ぎる」といったこともあるでしょう。

しかし、ビートルズのラストが駄作であっていいはずありません。

ジョン、ポール、ジョージ、リンゴの4人は、確執をしばし忘れ、最後の力を振りしぼりました。

この4人の若者のあっぱれなプロ根性を、まず高く評価せずにはいられません。

 

それでは、蛇足ながら各曲ごとにコメントしましょう:

 

カム・トゥゲザー:


1曲目がジョンというのも興味深い。ポールが気を使ったのか。最初のシングル・カットもコレ(サムシングと両A面。全米1位)。コレは強烈でした。初めてラジオで聴いたとき、イントロで何が起こっているのか良く分かりませんでした。「シュート・ミー (Shoot Me)」のジョンの声、リンゴのタム、ポールのベースが渾然一体となって、怪しげなムード全開です。あくまでヘビーにクールに。基本は単純なロックン・ロールなのに、どうしてここまでかっこ良くなるの!

 

サムシング:

 ジョージ・ハリソンはこれで報われました。徹底的に創り込まれた3分間。究極の「起承転結」。感動の「転調サビ」が一回だけなのは、絶対に正しいのです!ジョージの泣きギターに加え、特筆モノはポールのベース。「うるさい」一歩手前で「歌うように」寄り添います。成熟したリンゴのドラミング。気品あるストリングス。厳粛なオルガン。あまりにも素晴らしい・・・・。

 

マックスウェルズ・シルバー・ハンマー:
 ジョン・レノンはこれがイヤだったんですね。ポールの露骨なノスタルジーというか、ボードビルの世界の「おじさん」臭さ。サージャント・ペパーズの「ホエン・アイム・シックスティ・フォア」も同じです。特筆すべきはムーグ・シンセサイザー。ポップス界では最も早くシンセを取り入れたビートルズですが、ここでの扱いは実に優雅。やたら効果音的に使わないセンスのよさが光ります。

 

オー!ダーリン:


なにしろポールのヴォーカルに脱帽です。スタジオに誰よりも先にやって来て一回だけ歌い、満足行くまで何日も歌い続けたというエピソードは有名です。最終版はテイク26!サビを聴くとポールの「狂気」に迫れます。「ほんとはジョンよりポールの方が狂ってる」という人がいますが、そうなのかもしれません・・・。

 

オクトパス・ガーデン:
 愛すべきリンゴ・スターの曲としか言いようがありません。効果音満点のカラフル・ビートルズ!

 

アイ・ウオント・ユー:
 情念また情念でひたすらリピートし、シンセサイザーのホワイト・ノイズをビュービュー言わせてしまう。「もうカンニンしてくれ」というところまで行ったら突然カット。これをやってしまうのがジョンのすごさです。。

 

ヒア・カムズ・ザ・サン
 マイ・スウィート・ロード」につながる、ジョージのアコースティック路線。変拍子やシンセのダビングなど凝りに凝ってるのに、さわやかに聴こえるところはサスガです。

 

ビコーズ:


 シンプルなジョンの曲造りもみごとですが、なんと言ってもコーラス。3声のハモリを3回重ね、全部で9パートに。完璧なピッチで夢幻的に包み込みます。ビートルズは結局「声」で世界を支配したんですね!

 

メドレー:
 さて、いよいよ問題のメドレーです。核は確かにポールなんですが、ジョンの「毒」もじゅうぶん効いているからこそ、特別なものになりました。複雑に創り込まれた楽曲の流れが、ゴールデン・スランバーのメランコリーを経て、キャリー・ザット・ウエイトの突き放したような力強さ、そしてジ・エンドへと、まさに上りつめて行きます。最後の「ソロ回し」はビートルズらしいというか、はっきり言って「ヘタウマ」。「これじゃレッド・ツェッペリンらの本格的ハード・ロック勢とはとても戦えないな」と当時思ったものですが・・・。

結局、君が受け取る愛は君が生み出す愛と同じ」と、すべてを総括する哲学的メッセージから、オーケストラの大団円へ。これぞカタルシス。ハー・マジェスティも余裕のご愛嬌。

ポップの世界で、これ以上の完成度をどう求めたらいいのでしょう。

 

ということで「アビイ・ロード」。4人できっちりと、落としまえをつけました。

 

まあ、あらためて、ビートルズの「最高傑作」を選ぶなんてことにやっぱり意味はないんですね。

なんせ全部聴くしかないんです。世界を根底から変えたバンドなんですから!

 

さて、皆さんにとってのビートルズはいかがでしょうか?

 

 

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ところで、ビートルズの「ものすごさ」を伝えるのは、やっぱりこの本、「ビートルズ・レコーディングセッションマーク・ルウィソーン著)」です。

1962年のデビューから1970年の解散まで、文字どおりビートルズの全レコーディング・セッションを、日記形式で記録したドキュメンタリーです。

ビートルズは、特に後期に入り、リハーサル・イコール・レコーディングで、ひたすら録音を続けました。一曲を20~30テイク録るのはザラで、中には60テイク以上録るのもあったようです。そのころは「共作」はほとんどなく、各々一人で作曲し、完成まで責任を持つというスタイルで、その作曲者が納得するまで、何度でも録音は続けられます。

例えば、ポール作曲の「オブラディ・オブラダ」。能天気なハッピー・ソングに聴こえますが、ポールはその出来映えに満足できず、ひたすらダメ出しを続けます。あまりに同じ演奏を繰り返すので、しまいには、他のメンバーや録音スタッフも皆嫌気さしますが、どこまでも徹底的につきあいます。最後に、リンゴが切れて一時行方不明になったりもしますが・・・。

この「納得するまで妥協せず、やり抜く」ということ。ビートルズがただの才人の集まりでなく、生みの苦しみにもだえる「努力の集団」でもあったことに感動します。

ぜひ、ご一読をおすすめします。

 20120305