close-to-the-edgeロックの到達した一つの極点が、イエスの「危機」です。

1972年。時まさに、英国プログレッシブ・ロックが満開の花を咲かせていた頃。ピンク・フロイド、EL&P、キング・クリムゾン、ジェネシスなど、大物グループのかずかずが、商業的な成功を二の次に(?)、音楽性・芸術性を掘り下げ、「我こそは」と競い合っていました。クラッシックやジャズとの融合。ロックが芸術に近づけると真剣に思えた時代でした。

イエスは、その中でも比較的若々しいイメージで、軽快なビートに多重的なコーラスを乗せるのが基本コンセプト。複雑な曲調の中にも、常に躍動感をみなぎらせているのが特徴でした。

猛烈な練習量と、果てしない編集作業のたまもの、ロックでは通常使われない高度なコード進行と演奏テクニック、強固な構成力を兼ね備えた、真の芸術作品と呼べるものでしょう。

「危機」のアナログA面を一曲で占めるタイトル曲は、まさにクラッシックの交響曲にも匹敵する構築美を誇ります。疾走するイントロ。力強く提示される主題。変奏部。幽玄の中間部。そして、頂点を極めるクライマックス。まさにロック・シンフォニーとしか言いようがありません。

続く「同志」も雄大そのもの。最後をかざる「シベリアン・カートゥル」は、変拍子なのにものすごい「グルーブ」を生み出しています。ぜひ、お聞きください:

「危機」は、全英4位、全米3位、プラチナ・アルバム(売り上げ100万枚突破)と商業的にも大成功を収めます。

このアルバムを作り上げたのは、イエス黄金期ラインナップです:

ジョン・アンダーソンは少年のように澄み切った声で、幽玄の世界を歌い上げます。どんな曲でも、彼が歌えば「イエス」なんです。スティーヴ・ハウは、高いギター・テクニックで空間を埋め尽くします。クリス・スクワイヤーはリッケンバッカー・ベースで、たたみかけるように重低音を繰り出します。リック・ウエイクマンは、正統派クラシックの素養をバックに、多様なシンセサイザー、メロトロンなどを華麗に操ります。そしてビル・ブラッフォードは、シャープでタイトなドラミングとともに、バンド全体を引っ張って行くんです。久我の最も愛するドラマー![下記コラムもご覧下さい]

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もし一度も聞いたことがなければ、とにかく、ぜひ聴いてみて下さい。CDはたくさんの種類が出ていますが、2003年のRhinoレーベルによるリイシュー盤は、それまでの音像を一新する画期的なリマスターで、ボーナス・トラック4曲入りのすぐれもの。まさに定番です。

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もし「危機」が気に入ったなら、前作「こわれもの」、そしてその前の「イエス・アルバム」と聴いて行くのが順当でしょう。これこそ、初期イエスの正に黄金期を象徴する傑作の数々なんです。

さらにイエスと相性が良さそうだったら、今度は、「危機」以降の作品も聞いてみて下さい。「海洋地形学の物語(なんというタイトル!)」、リック・ウエイクマンの後任としてパトリック・モラツの加入した「リレイヤー」、トレバー・ホーンのプロデュースした超ポップな「90125」まで、長い歴史を誇るイエスの音楽性は実に多様なんです。

メンバー・チェンジが多いのはロックバンドの常ですが、イエスはソープ・オペラのようにくっついたり、離れたり。なんと、まだまだ現役!

イエスはいつまでも続いて行くんです!

 

[補論:ビル・ブラッフォードとアラン・ホワイト]

プログレのドラマーはこうでなければならない、というのは、両者の違いを見れば分かります。

「危機」は基本的に三拍子の曲なんですが(ワルツなんです)、これを、ビル・ブラッフォードの場合、ふつう三拍目にスネアのビートを持ってくるところを、時々(無意識に?)、一拍目 (小節のあたま)や二泊目に持ってくることによって、一瞬変拍子のような複雑なビート感をたたき出すことに成功しており、楽曲全体に引き締まった緊張感、文字どおり「危機」をかもし出すことに成功しているのです。

これをアラン・ホワイトがやると、あくまで三拍子を「何の必然性もなく」乱暴に叩いてしまうので、緊張感というものが全く出ず、ただ音楽が前に進んでいくだけなんです。

たとえば「イエス・ソングス」などでの「危機」のライブを聴くと、悲しくなります。

これは、アラン・ホワイトの場合、普通のロック系セッション・ドラマー出身で、網目のあらい音楽しかやったことがないので、しかたないとも言えます。上手・下手ということでなく、向き不向きの問題です。この素養は、何年たっても変わりません。

「こわれもの」の「ラウンド・アバウト」も同様です。ビル・ブラッフォードは、はっきり言ってどう叩いているのか分からないんですけれど、とにかく、ものすごい躍動感を生み出しています。鍵は、スネア・ドラムのロールとキックのタイミングだと思うんですが・・・。

彼のシグネチャー・サウンドとも言える「スネア・サウンド」は、「スコーン、スコーン」とハイ・ピッチで突き抜け、何度聴いても快感!。これを、予測不能なランダムのタイミングで繰り出すんだからたまりません・・・。

一方、アラン・ホワイトの叩く「ラウンド・アバウト」は、ただの8ビート・ロックになってしまいます。力強いだけで、ぜんぜん違うんです。

この根本的違いを無視して、ビル・ブラッフォードの脱退時にアラン・ホワイトを連れて来たジョン・アンダーソンを久我は恨みます(但し、「錯乱の扉」「オーナー・オブ・ザ・ロンリーハート」の2曲だけは、アラン・ホワイトの健闘を認めてもイイですけど・・・)。

プログレッシブ・ロックのドラマーに必要なのは、まず、ジャズの素養、アフター・ビートのみでないスイング感覚、繊細なタイム感、音楽を流れる帯でなく、瞬間瞬間のスクエアで捉えられるような感じ、そして、時として一本釘をさせるロック魂。こういったものが交じり合わないと無理でしょう。

私の見るところ、そのような要素を満たすプログレ界のドラマーは、ビル・ブラッフォードのほかでは、フィル・コリンズぐらいでしょうか。マイケル・ジャイルスやイアン・ウォーレス、アンディ・マカロックあたりも、十分ではないけれど水準に達しているとは思います。

EL&Pのカール・パーマーは、走ったりもたったり安心できないのが玉にキズ。ピンク・フロイドのニック・メイソンは、味はあるけどあまりにもマッタリ(プログレ界のチャーリー・ワッツ?)。元ドリーム・シアターのマイク・ポートノイまで行っちゃうと、「心がない」というか、機械としか思えません。

ビル・ブラッフォードが、プログレ界の渡世人よろしく、そこら中から声が掛かったのも当然でしょう。彼のたたき出すビートこそが、プログレなんですから。

今は引退してしまったビル・ブラッフォード。今後は、彼が残してくれた素晴らしいレコーディングの数々を繰り返し楽しむしかないんですね・・・。

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